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異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第三章:竜人族の秘密
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-第三十七話:灰の記憶と迷い-

 神殿へと戻る道は、来たときとはまるで違っていた。空には淡く光る繭のような月が浮かび、空間に漂う霧は、何かの意志を持つように静かに道を開いていた。


 俺は言葉少なに歩きながら、拳を何度も握っては開いた。


 神殿の入り口に辿り着いたとき――


 「……戻ったな。」


 低く、けれどどこか優しさを孕んだ声が、神殿の陰から響いた。そこに立っていたのは、ジル=エグニスだった。


 俺は顔を上げ、まっすぐジルを見据えた。


 「……全部、見たよ。あんたたちが世界を守ろうとして……それでも、他の種族を殺す道を選んだことも。」


 ジルは目を閉じたまま、静かにうなずいた。


 「300年前から、我ら竜人族は世界を『維持』するために動いた。だが……その代償として、信頼も、誇りも、そして未来も失った。」


 「じゃあ、なぜまだ“選ぶ側”に立っている? なぜ、今もなお“決断する者”として俺たちの前にいるんだ?」


 俺の問いに、ジルは目を開いた。その瞳には、かつて記録に映ったような激情ではなく、深い悔恨と、澄んだ覚悟が宿っていた。


 「……お前たちのような者が現れることを、我々は……ずっと待っていたのかもしれない。」


 「お前たちは“知らぬ者”ではなくなった。記憶を継ぎ、過去を背負い、それでも進むと誓った……ならば、我々に代わって未来を“選ぶ資格”がある。」


 ラウウルが一歩前に出る。


 「ジル……君は、それを本気で言っている? 他の種族を虐殺しておいて、……僕たちの手に、希望を託せるって?」


 ジルは首を横に振った。


 「希望など、とうに尽きたと思っていた。だが、“視える目”を持つ者が、絶望の中で手を伸ばし続ける姿を見たとき……かつて滅びた少女の最期の言葉を、私は思い出したんだ。」


 『お願い……誰か、この星を……救って……』


 その声が、再び霧の奥から聞こえたような気がした。


 ジルはゆっくりと歩み寄り、俺たちの前で膝をつく。


 「我々竜人は、大義の名の元に多くの命を奪った。もはや、贖罪のしようもないだろう。だが、もしも未来を切り拓ける者がいるなら……その剣となり、盾となろう。」


 俺はしばらく黙っていた。ラウウルの集落で見た惨劇をこいつらは繰り返してきたんだ。


 「少しの間、ここに滞在していいか?」俺はすぐには決断できなかった。


 ジルは初めて、わずかに微笑んだ。


 「もちろんだ。」


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