表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第二章:世界樹「母なる巨木」
31/55

-第三十一話:送り火-

 俺たちはハナウアに戻った。夜の焚き火を前に、俺とラウウルは肩を並べて座っていた。


 負の魔素は、すでに俺たちの手で取り除かれた。それでも、巨木は未だに深い眠りから覚めきっていない。ざわめく枝葉の音が、かすかに痛みを訴えているようだった。


 「ねえ、蒼。これで悪い魔素はもう無くなったんだよね……? なのに、どうして……?」


 ラウウルが、不安げに俺を見る。


 「ああ。詰まりはもう無い。けど……枯れた世界樹が、元の力を取り戻すには、まだ栄養が足りないんだ。」


 魔素の循環は回復しつつある。だが、完全ではない。魔力合成が、まだ弱いのだ。


 「じゃあ、何をすればいいの?」


 「巨木の周りで大量の魔力を消費して魔素を生成する必要がある。それと、適切な量の日光と水も必要だ。」


 そのとき、宿家にミーネが入ってきた。俺たちに気づくと、にっこりと微笑む。


 「何か困っているのか?」


 「……ああ。」俺はうなずく。「巨木は、まだ本当に目覚めてない。何か、一度に魔力を大量に消費する方法はないかと思って……。」


 ミーネはしばらく考え込むと、ふっと目を細めた。


 「――送り火、だな。」


 「送り火……?」


 「そう。もともとは、死者を送るための儀式だがな。」ミーネは楽しげに言った。


 「ハナウアの人々が一斉に魔法の火を灯し、空へ放つ。大量の魔力を一時に消費できるだろう。」


 俺は息を呑んだ。


 「私から評議会に掛け合い、みんなに呼びかけよう。――巨木を蘇らせるために、今こそ、火を空へ送ろうって。」


 俺たちは思わず顔を見合わせた。


 「……お願いします!」


 二つの太陽が真上に来る頃。空は雲一つない青空だ。


 ハナウアの猿人族たちが、静かに巨木の根元へと集まっていた。ティス、コル、レンたちも、それぞれ手に、小さな火球を抱えている。


 ミーネが一歩前に進み出た。


 「世界を巡る光よ……古き命に、新たな巡りを。」


 彼女の声に合わせ、最初の火球が青空へ放たれる。


 ぼうっ、と音を立て、炎のかけらが天へと駆け昇った。続いて、次々に。青、緑、金、紅――さまざまな色の光球が、弧を描き、青空を彩っていく。


 ラウウルが俺の袖を引いた。


 「蒼! 空気が光で満ちているよ!」


 ラウウルが嬉しそうに言う。


 新たに生まれた魔素が、夜気に満ち、巨木の皮膚から静かに吸い込まれているはずだ。俺は魔力合成に必要であろう水を巨木の根に少しずつ注いでいく。川から皆んなで運んできた大量の水を水魔法で操る。


 巨木が、微かに震えた。


 そして──


 枯れていた枝先から、ぽつり、ぽつりと、柔らかな葉が芽吹き始めた。葉は淡い青緑色に光り、ひとつ、またひとつと広がっていく。


 「……再生が、始まった。」


 俺は小さく呟いた。


 巨木が新しい魔素を吸い上げ、古い導管を満たし、命を蘇らせていく。


 ラウウルが、きらきらと目を輝かせた。


 「蒼……! 本当に、世界樹が……!」


 「……ああ。」俺は静かにうなずいた。


 巨木はみるみるうちに再生し、青々とした昔の姿を取り戻した。

挿絵(By みてみん)

※本画像はChatGPTを用いて生成したものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ