表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第二章:世界樹「母なる巨木」
28/55

-第二十八話:光る導管-

 ラウウルが風導笛を構える。空気が震え、風がざわめき始めた。巨木の根元に立つ俺の足元にも、かすかに渦巻く風の気配が感じられる。


 「いくよ、蒼!」


 「ああ、できるだけゆっくり、広範囲に頼む。」


 笛が鳴った。高く澄んだ音が森に響き、周囲の空気がなめらかに流れを変えていく。地表近くの枯葉がふわりと舞い、渦に巻き込まれる。


 俺は試験用に持ち歩いていた小瓶の栓を抜き、粒子が集まりやすい地点に設置した。瓶の口元に微かに魔力をまとわせ、吸引を促す。すると、瓶の中に微細な粒子が集まり、何やら熱を持ち始めたように感じられる。


 「……ラウウル、今、瓶の中に何か見えるか?」


 「うん、青と赤の光……すごく綺麗だよ。」


 俺は頷き、その瓶の中身を慎重に巨木の根元、裂けた樹皮の隙間へと注いでいく。


 数秒の沈黙ののち――


 「……光った?」ラウウルがぽつりと声をあげた。


 俺には何も見えない。しかし、彼のその声に、確信のような響きがあった。


 「中が、うっすら光っている。青緑……命の色みたいに、静かで、あたたかい。」


 俺は木の幹に耳を当てるようにして目を凝らす。そこにあるのは、科学的推察と観察の積み重ね。光は見えないが、内部に変化が起きているのを、俺の知識が告げていた。


 「間違いない……導管だ。」


 「導管?」


 「植物の幹の中に、水や養分を運ぶための管があるんだ。植物は根から水を吸い上げて、葉で光合成をしている。巨木も似た構造を持っている……魔素を運ぶ、魔導管だ。」


 幹の裂け目を覗き込む。目視できるのは、木質の網目とごく微細な振動だけ。だがラウウルはまた見えているのだ。


 「ねえ、今、導管の中を魔素が通っているよ……流れている!」


 俺の胸が熱くなった。科学で語るならばそれは、水圧の回復。だがこの世界では魔力の“循環”の始まりだ。


 「やっぱり、反応が始まったんだ……けど、これを持続させるには、まだ足りない。」


 「“呼吸”をさせなきゃ、ってことだよね?」


 「そう。魔素の吸収と放出、それを絶え間なく繰り返せるようにする。“魔素の呼吸”を。」


 そのとき、足元の地面がわずかに震えた。巨木が自らの意志で何かを試そうとしているかのように。


 やはり、生きている!


 「やったね、蒼!」


 ラウウルが笑う。その表情を見て、俺も自然と笑っていた。


 だが、同時に考えずにはいられなかった。この“呼吸”がかつて止まってしまった理由を。


 「原因を突き止めないと。また同じことが起きる。」


 「うん……魔力合成が壊れた理由を。」


 だが、まだ俺たちは知らなかった。地中の奥深くに、黒い魔素の塊が、動かぬまま眠っていることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ