表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第二章:世界樹「母なる巨木」
27/55

-第二十七話:見えざる循環-

 ミーネの家を後にし、俺たちは借家に戻って泥のように眠った。


 翌日、俺たちは巨木の根元へと戻ってきた。「炎の龍」の死体の処理はミーネ達がやってくれるらしい。彼らは火魔法が得意なようだし、うってつけだろう。


 風が枝を揺らし、木々の間から柔らかな陽が差している。だが、巨木の葉はほとんど枯れ落ち、幹もところどころ裂け目が走っていて根元には灰が積もっている。明らかに生命活動が弱まっている。


 「こいつをどうやって……」俺は木の根元に膝をつき、灰を払い、手を当てた。


 かつて大学で研究していた温室の植物たちとは明らかに違う。だが、生物としての原理は同じはずだ。光合成も呼吸も、魔法も――違いはあれど循環だ。


 そう考えてみるのだが、全く解決の糸口が見えない。とりあえず、根元に積もっている灰を綺麗にしてみるか。俺は風魔法で灰を吹き飛ばしていく。


 「あれ?光のかけらが巨木に吸い込まれていく…。」ラウウルが不思議そうに呟く。


 「光のかけらって?」俺はラウウルから聞いたことのない言葉に反応した。


 「魔法を使うと小さい光が出るんだよ。青色と赤色の光があるんだ!」


 魔法を使うと残留物が出るということだろうか。そうだとすると、魔法は魔力を消費しているというよりは、化学反応のように別の物質、エネルギーに変換するということか。その残留物が巨木に吸収された。ということは、


 「……魔素二酸化炭素。」俺は無意識にそう呟いた。


 ラウウルが怪訝な顔をする。「何それ?」


 「いや……植物は“二酸化炭素”って気体を吸って、光と水を使って糖を作るんだ。たぶん……この巨木でも似たようなことが起きている。でも、ここでは普通の“二酸化炭素”じゃない。きっと、光のかけら――魔素が混じった……もっと特殊なものなんだ。」


 ラウウルはポカーンとした顔をしていた。俺は立ち上がり、枯れかけた葉を一枚摘んだ。指先で撫でると、微かに魔力の反応がある。完全に死んではいない。


 「つまり、この巨木は――いや、“世界樹”は、魔力を再生する存在なんだ。人が魔法を使うと、空気中に“消費済みの魔力”が排出される。それをこの巨木が吸収して……魔力をまた“合成”している。」


 「合成……つまり、光のかけらを回収して、もう一度使える形に戻すってこと?」ラウウルが眉をひそめた。


 「そう。光と水、そして……残留魔素。それらを元に魔力を再構成しているんだ。光合成みたいに。いや、魔力合成そう呼ぶべきか。」


 ラウウルが目を丸くする。「蒼、なんでそんなことがわかるの……?」


 「昔、“植物”のことを勉強していたんだ。」俺は笑う。


 巨木の幹に再び手を当てた。ここに、まだかすかな魔素の流れがある。ならば、魔力合成をもう一度活性化させれば、巨木は蘇る――そう確信できた。


 「問題は……合成に必要な“材料”だな。」


 「材料?」


 「水と、光と……青と赤の光のかけら。それが足りないんだ。」


 「つまり……“魔法を使ったあとに出る何か”が、もっと必要ってことか。」


 ラウウルがぽんと手を打った。「じゃあさ、俺たちで一度、大規模に魔法を使ってみよう。風を巻き上げて、空気中の“それ”を集められるか試してみるんだ。」


 俺は少しだけ考えて、頷いた。「やってみよう。」


 再生はまだ始まっていない。けれど、俺たちはその“鍵”に近づいている。世界を循環させる仕組み、それを取り戻すことができれば――巨木は、必ず再び芽吹く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ