-第二十六話: 晴れたハナウア-
巨木の根元に凍ったまま砕けた龍の残骸が散らばっていた。死体の処理もちゃんとしないといけないが、今日はもう疲れた。ハナウアに戻ってミーネに報告してすぐにでも寝たい。あぁ、ティスたちにも伝えないとだな。
「ひとまず、これでひと段落か……」ラウウルが息をつく。
俺も同じように肩の力を抜き、目の前の巨大な遺骸を見つめた。全身を覆っていた炎はすでに消え去り、龍の体は氷の塊と化している。目を閉じると、あの戦いの激しさが再び蘇るが、それでも俺は達成感を感じていた。
「母なる巨木の復活も、これで見えてきた。」俺は呟いた。
「でも、これだけじゃ終わらない。これからのことを考えないと。」ラウウルが真剣な表情で言う。
確かに、龍の討伐は成功したが、龍の影響を消し去ったわけではない。巨木は今もなお枯れかけており、その回復の方法についてはこれから考えなければならない。すぐにでもミーネに報告しに行くべきだと感じた。
「そうだな。まずはハナウアに戻って、ミーネたちに報告しよう。疲れたけど、もう少しだけ頑張ろう。」
俺たちはそのまま巨木の上空へと進んだ。風の魔法を駆使して滑空しながら、徐々にハナウアの街並みが近づいてくる。すでに薄明かりが射し込んでおり、街の上空を舞いながらその雰囲気を楽しむことができた。立体的な街の構造が徐々に明らかになっていく。高くそびえ立つ木々の中に、風に揺れる吊り橋が架かり、上空に浮かぶ小屋や家々が見える。その独特な風景は、まるで空中に浮かぶような感覚を与えてくれる。
「ようやく着いたな。」ラウウルが言った。
俺も頷くと、街の中に降り立った。ミーネのところに急がなければならない。巨木の周辺で起こった出来事を報告するために。
街に降り立つと、すぐにミーネの居場所を尋ねた。彼女の家は、ハナウアの中心にある大きな木の上に建てられている家で、周りにはラニ族の風の魔法で作られた結界が張られているため、外の騒音はほとんど届かない。そこには、彼女と共に過ごす時間がゆっくりと流れているような気がした。
「お疲れ様。」ラウウルが声をかけると、近くにいた風使いの兵士がこちらに歩み寄ってきた。
「ラウウル、蒼さん、お二人をお待ちしていました。ミーネ様が上へ案内するように言っております。」
その言葉を聞き、俺たちはそのまま指示に従い、木の上へと向かう階段を登り始めた。階段を上がるにつれて、静かな街の風景が広がっていく。木々に覆われ、時折揺れる橋が見え、ハナウアの空気はどこかしら異世界的な魅力を持っていた。
「蒼、どうだった?」ミーネがすでに待っている部屋で俺たちを迎えてくれた。彼女の表情は穏やかで、何も起きなかったかのように思えるが、俺たちの顔を見た瞬間、その表情が少し硬くなった。
「龍の討伐は成功した。」俺は短く答えると、ミーネが深く息をついた。
「お前たちならやり遂げると信じていた。」
「あの龍は倒したが、巨木は今も枯れたままだ。復活させるための方法を考えないといけない。」俺は悩ましそうに言った。
「先日お前たちに伝えた伝承を覚えているか?」ミーネは少し考え込みながら言った。
「“赤き空を裂く焰の竜、母の命を奪わん。炎を鎮めるは氷の雨”だっけ?」ラウウルが思い出しながら答える。
よく覚えているな。正直俺は忘れていた。
「その通り。その伝承には続きがある。“蒼と紅の未知なる知恵により、母は再び芽吹く。”」ミーネが続けた。
「アオとアカ?」ラウウルが尋ねる。
「お前たちがこのハナウアを訪れたときから確信していた。蒼き瞳を持つアオイ、紅き瞳をもつラウウル。お前たちが巨木を復活させるのだ。」
ミーネの言葉に、俺は驚きながら反論する。「そんなこと言われても…。一体どうやって?」
「お前たちなら見つけ出すはずだ。現に“炎の龍”を倒して見せたではないか。」
俺はミーネの言葉に答えずに考え込んだ。地球で俺は植物学研究者の端くれだった。そんな俺になら確かに何かできることがあるかもしれなかった。
「やってみるが、出来なくても責任は取れないぞ。」俺は重々しく答えた。
「そうか!もちろん私も協力する!」ミーネは満足そうに言った。
ラウウルがその言葉を聞き、少しだけ微笑んだ。「ありがとう、ミーネ。」
俺もその笑顔に頷きながら、心の中で決意を新たにした。




