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異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第二章:世界樹「母なる巨木」
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-第二十話:「母なる巨木」の焼け跡-

 私たちは、ミーネが紹介してくれた空き家で睡眠を取り、ようやく旅の疲れを癒した。木製のベッドには大きな葉が何枚も敷き詰められ、その上に、触れただけで分かるほど質の良い白いシーツがかけられている。葉の繊維がほどよく沈み、身体の重みを受け止めてくれる感触が心地よかった。


 ――ちゃんとした寝床だ。


 この世界に来てから、初めてと言っていい。地面でも、蔵の床でもなく、安心して身体を横たえられる場所で眠れるというだけで、胸の奥に溜まっていた緊張がほどけていくのが分かった。


 ラウウルも、ベッドに腰掛けたまま、何度も手で葉の感触を確かめていた。嬉しそうに、少し照れたように笑うその表情を見て、私まで気持ちが軽くなる。


 朝、目を覚ますと、ミーネの命令で来たという若い女性が、静かに部屋に入り、朝食用の果実をいくつか置いていった。赤や黄色に熟した果実が籠に収められ、甘い香りが部屋に広がる。


 街の食生活は、基本的には集落と大差ないようだ。だが、果実の選別や保存の仕方は洗練されていて、都市としての余裕を感じさせた。


 今日は、ミーネの言っていた通り、「母なる巨木」の元へ向かうつもりだ。この街を出て南に五時間ほど歩けば、根元に辿り着くらしい。


 霧は、いつの間にかすっかり晴れていた。私たちは身支度を整え、ハナウアの南門から出発する。


 私たちのボロボロの服を見かねたのだろう、ミーネは新しい服を用意してくれていた。それは絹のように滑らかで、肌に吸い付くような上質な質感をしている。染色も均一で、深みのある色合いだ。


 ――高そうだな……。


 そう思ったが、この街の住人たちは、誰もが当たり前のように同じ質の服を身につけている。もしかすると、この星では製糸や繊維加工の技術が、地球よりも進んでいるのかもしれない。あるいは、魔法による補助があるのか。


 案内役として、若い青年が同行してくれることになった。名はコル。まだ十代後半といった年頃だが、背には弓、腰には狩猟用の短剣を下げ、その足取りには無駄がない。


 「森に入ったら、音を立てるなよ。」


 歩きながら、コルが低い声で言う。


 「焼け跡の周辺には、今も“火の粉”が舞っている。……龍の魔力が染みついた場所だからな。」


 その言葉に、ラウウルがぴたりと足を止めた。


 「“火の粉”って……まさか、あの幻像に出てきた炎の龍の……?」


 「ああ。あれの残滓さ。形こそ朧げだが、触れれば火傷じゃ済まない。気をつけろよ。」


 重苦しい空気を払うように、風が梢を揺らす。私はラウウルの肩にそっと手を置き、無言で頷いた。ラウウルも一瞬だけ唇を噛みしめ、それから小さく、だが力強く頷き返す。


 森を抜けるにつれ、空気は次第に乾いていった。樹々の葉は色褪せ、ところどころが焦げたように縮れている。


 やがて、緑は完全に姿を消し、足元の地面は黒い灰で覆われ始めた。焼け焦げた匂いが鼻を刺す。遠くには、大木が途中から折れ、炭のように黒く立ち尽くしているのが見える。


 「……あれが……“母なる巨木”の残骸……?」


 私の問いに、コルは言葉少なに、静かに頷いた。


 私たちは、灰を踏みしめながら、巨木の残骸へと近づいていく。一歩進むごとに、空気が重くなっていく気がした。


 そこには、地を突き破るようにうねる、黒く焼け爛れた巨大な根が広がっていた。幾本もの根が天を目指すように突き出し、その姿は、まるで何かの咆哮がそのまま形になったかのようだ。


 幹には、深く抉られた爪痕が残っている。龍がここに絡みつき、爪を振るった――その光景が、生々しく脳裏に浮かんだ。


 「これが……“焰の爪痕”……」


 ラウウルが、震える声で呟いた。


その瞬間、生温かい風が頬を撫でた。嫌な予感が背筋を走る。私が身を固くすると、コルが即座に身構えた。


 「来るぞ……!」


 木々の陰から、揺らめく炎の塊が現れる。火の玉のように脈動しながら、こちらへと漂ってきた。


 「“火の粉”だ!」


 「ラウウル、“火の粉”の魔力の動きはどうなっている?」

私は平静を装いながらラウウルに尋ねる。


 「……“火の粉”を覆う黒い光が、“母なる巨木”と繋がっている!」


 なるほど。どうやら“母なる巨木”を材料として、燃焼が維持されているらしい。


 ――なら、止め方は一つだ。


 私は水筒の蓋を開け、“火の粉”へと近づく。水筒の水を操り、炎を包み込むように展開する。高温で蒸発しないよう、水分子の運動を強制的に抑え込む。酸素の供給を絶った。


 炎は、音もなく消えた。


 私は水を水筒へと戻す。


 「……ふぅ。」


 ラウウルがその場に膝をつき、安堵の息を吐く。


 「見事だ……」


 コルが、唸るように呟いた。


 「お前ら、本当にただの旅人か?」


 私は答えず、黒く焼けた根へと近づき、そっとその表皮に触れた。熱はない。だが、完全な死の感触でもない。


 ラウウルも、私の隣で同じように根に手を当てる。


 「……この木、死んでない。」


 その言葉に、思わず目を見開いた。


 「えっ……?」


 「まだ、内側に弱い光が見える。すごく、弱いけど……。」


 私は顔を上げた。黒く焼けた根の奥に、確かに――消えきらない“何か”がある気がした。


 「……“母なる巨木”は、完全には死んでいない。“炎の龍”の爪痕の下で、まだ……生きている。」


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