表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも科学は役に立つ!!  作者: ANK
第一章:未知との遭遇
16/56

-第十六話:再来-

 その後、私たちは川辺に並んで寝転がり、ほとんど無防備なまま眠りに落ちた。警戒を怠ったというより、正確には――疲れ切っていて、それ以上どうする余裕もなかった。地面の硬さも、湿った草の感触も、気にならなかった。まぶたを閉じた瞬間、意識が深いところへ引きずり込まれていく。頭の奥ではまだ集落での凄惨な光景が渦を巻いていたが、それすら抗えなかった。


 どれくらい時間が経ったのか分からない。目を覚ましたとき、2つの太陽はすでに空高く、川面には白い光が揺れていた。


 私たちは川辺を後にし、東へと歩き出した。そうして、一時間ほどが経過していた。木々の背丈は高く、枝葉が空を覆っているため日差しは弱い。だが、その代わりに湿気と熱気がこもり、肌はじっとりと汗に濡れていく。呼吸をするたび、温い空気が肺に溜まる感覚があった。


 背後からは、ラウウルの軽い足音と、ときおり鼻歌まじりの声が聞こえてくる。そのあまりの緊張感のなさに、私は少しだけ苦笑した。とはいえ、彼なりの平静の保ち方なのかもしれない。私は気を抜かず、地形や足元の起伏、植物の種類や倒木の向きまで意識しながら、慎重に歩を進めていた。


 そのとき、ふと足元に広がる黒い色が目に留まった。


 数メートル四方。

 草木が不自然なほどに焼け落ち、地面は炭化している。空気には、微かだが確かに、燻されたような匂いが残っていた。新しい。


 「……ここ、何か燃えた跡があるな。」


 声に出した瞬間、胸の奥がざわついた。


 「うん……何かが通ったみたい……。」


 ラウウルも足を止め、焼け跡を見つめていた。その表情は、さっきまでの気楽さが消え、わずかに強張っている。


 そのときだった。


 「……ッ!」


 木々の向こう、数百メートル先。地響きのような重低音が、空気そのものを震わせた。


 ドン……ドン……ドン……。


 一定の間隔で、重く、鈍い振動。嫌というほど、覚えのある音だった。


 「この音……まさか……!」


 考えるより先に体が動いた。私は近くの茂みに身を滑り込ませ、息を殺す。ラウウルも、すぐさま私の真似をして潜り込んだ。


 数秒後――。


 木々を押しのけるようにして、あの巨体が姿を現した。昨日目撃した、炎を吐くティラノサウルス型の生物。褐色の鱗に覆われた胴体。ところどころに混じる黒い体毛。い眼光が周囲を舐めるように走り、巨大な脚が地面を掘り返しながら前進している。


 「なんで、また……!」


 息を潜めたまま、必死に様子を窺う。だが、その巨大な頭部が、ゆっくりとこちらの方向へ向いた。


 視線が――重なった気がした。


 「……ッ、マズい!」


 次の瞬間、恐竜の喉元が脈打つように膨らんだ。嫌な予感が、確信へと変わる。


 轟音とともに、真紅の炎が吐き出された。


 「走れ!!」


 私とラウウルは茂みを飛び出し、全速力で森を駆けた。背後から、熱波とともに爆ぜるような燃焼音が迫ってくる。木々が燃え、枝が落ち、草が次々と炎に包まれていく。背中に、焼けつくような熱を感じた。


 「こっちだ!!」


 ラウウルに叫び、進路を変える。視界の先、木々の隙間に湖が見えていた。


 そこしかない。


 肺が悲鳴を上げる中、必死で湖へ向かって駆ける。ようやく湖畔にたどり着いたとき、背後の森はすでに炎に包まれていた。燃え盛る木々の間を、奴がこちらへ向かってくる。逃げ場は、もうない。


 ――だが。


 私は、この世界の「魔法」について、ある仮説を立てていた。これまで見てきた魔法――水を生み、炎を放ち、鉄の球を飛ばすそれらは、決して無から何かを生み出してはいない。

 必ず、「材料」が存在していた。


 川の水。

 死骸。

 鉄の球。


 そして、それらの「材料」と、純水、炎、鉄球の放出という「成果物」。両者の間にある共通点。


 ――分子。


 つまり、「魔力」とは、材料に含まれる分子の構造や配置、運動状態を操作する力なのではないか。

 そう考えれば、すべて説明がつく。目の前には敵。背後には、膨大な量の「材料」。これ以上ないほど、条件は揃っている。


 私は左手を湖へかざし、右手を前方の敵へ向けた。心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえる。


 “ラウウル式水魔法改”


 湖面が一瞬、ざわりと波立った。次の瞬間、空気が張り詰め、冷気が皮膚を刺す。


 左手が湖水を引き上げ、無数の水粒子が空中で旋回する。霧が逆再生されるように、水が一点へと集まり、右手へ集中していく。


 敵が吠えた。再び炎を吐こうと、喉元が膨らむ。


 「氷結(フリーズ)!!!」


 放たれた冷気が、一気に前方へ拡散した。粒子は瞬時に凍結し、透明な氷の刃となって風のように走る。


 氷は敵の体表に触れた瞬間、鱗に沿って広がった。生き物のように這い回りながら、音もなく、だが確実に凍結が進行していく。


 敵は咆哮を上げた。だが、その声は途中で途切れた。


 喉元から始まった凍結は、全身へと波及し、顎も、脚も、尾の先までも包み込む。鋭く硬質な音とともに、巨大な身体が完全に停止した。


 ラウウルが、息を呑んだまま呟く。


 「……凍った、全部……!」


 目の前には、氷の彫刻と化した恐竜。咆哮の途中で固まった口元、踏み出しかけた前脚、怒りを宿したままの双眸。まるで、時間そのものを封じ込めたかのようだった。


 私の肩を、冷たい汗が伝い落ちる。


 「……実験は、成功だ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ