-第十四話:ラウウルの過去-
俺とラウウルは木の幹に背を預けたまましばらくボーッとしていた。先ほどの惨劇を何とか自分の中で整理しようとしていた。冷静に考えてみようと何度も思うのだがどうしてもその時の恐怖と緊張の感覚が思い起こされて、思うようにいかなかった。
俺は隣のラウウルを見た。ラウウルは早朝の静かな空を何も言わずに眺めていた。清々しい爽やかな顔をしていた。長い間蔵に閉じ込められていた彼にとって窓枠のない空は久しぶりだったのだろう。それか、彼を虐げていた村の人間たちがいなくなってスッキリしたのかもしれない。
「Ua pepehi lākou i ka makuahine a me ka makuakāne.」――アイツらはパパとママを殺したんだ。
ラウウルは静かに口を開いて昔のことを話し始めた。
紅い瞳を持って生まれたラウウルは生まれた直後に周囲の大人たちによって「間引き」されそうになった。彼の両親はそれを必死で止めようとした。村の者たちは彼らが村の外れで暮らし、極力村民と関わらないことを条件にラウウルの生存を許した。
ラウウルが5歳になった頃、数日間豪雨が続いたせいで近くの川が氾濫し濁流が村の近くまで迫った。大人たちはそれをラウウルが招いた「災い」だと言い、彼を生贄として川に落とそうとした。当然ラウウルの両親はそれに反対した。大人たちはラウウルを見逃す条件に彼の両親が彼の代わりに生贄になることを要求した。彼の両親はラウウルの生存の保証を引き換えにこの要求を飲んだ。
ラウウルの両親が生贄にされた翌日豪雨は止み川の氾濫は治った。ラウウルは蔵に閉じ込められて、少ない食料だけを与えられ生かされた。たまに蔵から出されてゴミや死体の処理などをさせられた。
彼の話を俺は何も言わずにただ聞いていた。というより掛けるべき言葉が思いつかなかった。それでも話終わった後のラウウルの表情は穏やかだった。




