-第十三話:崩壊-
時間の感覚が消えていた。息をひそめ、微動だにせず、ラウウルと肩を寄せ合ってじっとしていた。外ではいまだに無機質な金属音が鳴り、叫び声と、鉄球で何かが砕ける音が夜の空気を裂いていた。
やがて、誰かがこの蔵の扉に近づく足音がした。ラウウルの手がぴくりと震える。俺の喉もかすかに音を立てそうになるのを必死で押し殺した。
ギィ……。
蔵の扉の錆びた蝶番がわずかに軋んだ音を立てた。誰かが覗き込んでいる。だが、トカゲたちは入ってこない。炎の明かりで外が少しだけ明るくなっているおかげで、闇の奥の俺たちは見えにくいのかもしれない。
「He ʻole lākou i ʻike iā mākou…」――見えてない…。
ラウウルがそう囁いた直後だった。
ズガアアンッ!!
蔵の裏手――ちょうど壁の向こう側――に鉄球が炸裂した。木片と土埃が巻き上がる。俺たちは反射的に身を縮めた。衝撃で床が傾き、蔵全体が軋んだ。太い梁が「バキィッ」と悲鳴のような音を上げる。
「E holo kākou!」――逃げよう!
ラウウルの手を引きながら叫ぶのと同時に、蔵の一角――俺たちのいた壁の斜め後方――が崩れ落ちた。建物の一部が完全に崩壊したことで、裏手へ抜ける隙間が生まれた。
「こっちだ!」
俺たちは立ち上がり、粉塵にむせびながら瓦礫の中をくぐった。崩壊した壁の隙間から夜の空気が流れ込む。
ラウウルが素早く身を滑らせ、蔵の外へ出た。俺も後を追う。後方で再び、鉄球の発射音が響いた。振り返ることなく、俺たちは夜の闇へと駆け出した。
燃えさかる集落の影を縫うように、俺たちは低く身をかがめながら走った。最も火の手が弱く、敵の視線が届かない場所を選んで進んでいった。そして近くの林へと飛び込む。
背後では、いまだ鉄球の音と悲鳴が交錯していたが、それが少しずつ遠ざかっていく。
気がつけば、夜の静けさが戻っていた。二人で木の陰に身を潜め、肩で息をしながら、俺たちは顔を見合わせた。
生き延びた。夜空の向こうがすでに明るくなり始めていた。
ラウウルが小さく呟いた。
「He ākea ka lani...」――空が広い…。




