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異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました

作者: 幻世

放課後の旧校舎。

ここは部活動として既定の人数に満たない活動である同好会が多く集う場所だ。

数ある同好会の中、二階最奥に一際異彩を放つ部屋があった。

その名も『オカルト研究同好会』。

部員は黒我(くろが)(このみ)ただ一人。

好は黒いとんがり帽子を被り、黒いマントを羽織ると今日も部室で一人怪しい儀式を執り行っていた。

携帯ガスコンロの上には通販サイト『なんでもあ~るぞ~ん』で購入した鉄製の釜『商品名:魔女の大釜』が火にかけられており、中は緑色の怪しい液体で満たされている。

「えっと、ここにヤモリの尻尾と蝙蝠の羽を入れてよくかき混ぜる・・・と」

好は『なんでもあ~るぞ~ん』で購入したヤモリの尻尾と蝙蝠の羽を大釜に入れてかき混ぜる。

すると液体は緑色から紫色へと変色し、そして・・・

ドゴオオオオオォーーーーーンッ!!

大釜が爆発して部屋を破壊した。

これにより部屋にいた好は爆発に巻き込まれ命を失うのであった。



「ぅぅん・・・」

意識を取り戻した好だが、周りを見てみるとそこには白い空間が無限に続いていた。

「えっと・・・ここはどこ?」

「ここは神である僕の領域だよ」

声がしたほうを振り向くとそこには一柱の男性が立っていた。

同世代の女性たちならきゃあきゃあいいそうなほどイケてる顔をしている。

「神の領域?」

「そ、君はわけのわからない液体を作っていた時に爆発してそのまま死んだんだ」

すると上空にスクリーンが表示されて好が事故を起こした一部始終が公開された。

すべてを見終わった好は腕を組んで考える。

「うーん、先日『なんでもあ~るぞ~ん』で購入した魔導書にはあの場面でヤモリの尻尾と蝙蝠の羽を入れると書かれていたけど、入れるタイミングを間違えたかな?」

好の言葉に神様は笑った。

「はっはっはっ、自分が死んだというのに実験が失敗したことのほうが気になるなんてね」

「当たり前です。 私は魔女になる女ですから」


なぜ好が魔女に憧れているのか?

それは幼少の時に見たテレビに影響されたからだ。

普通の女の子が憧れる者といえばお姫様と答える者が多いだろう。

しかし、好はテレビのコマーシャルに出てきた怪しいお婆ちゃん(魔女)が大釜で作ったお菓子に見とれていた。

『ねぇ、お母さん。 このお菓子食べてみたい』

『仕方ないわね』

近くのスーパーに行ってそのお菓子を購入して食べた時の衝撃は凄まじいものであった。

『あのお婆ちゃん(魔女)が作ったお菓子とても美味しい!!』

『そう、それは良かったわね』

それから好は絵本、漫画、小説、映画、アニメ、ゲームなど魔女が出てくるものなら何でも没頭した。

若いのもいれば年寄りもいる。

良い魔女もいれば悪い魔女もいる。

その一つ一つがどれも新鮮で好を虜にしていく。

それが高じて将来の進路に『魔女になりたい』と書くほどだ。

見かねた母親や学校の担任教師が止めようとするが、好の熱意に負けてしまう。

そして、好は魔女になるべく日々精進するのであった。


好は神様にどれだけ魔女が素晴らしいか身振り手振りを交えながら熱弁する。

「・・・というわけです」

「君から魔女への愛をすごく感じるよ」

「わかってくれますか!!」

好は目を輝かせると神様の両手を掴みブンブンと上下に動かした。

一通り喜んだところで神様が話を切り出す。

「君、面白いね。 僕が管理する世界に来ないか?」

「え?」

突然のスカウトに好は驚いた眼で神様を見る。

「君にうってつけの世界があるんだ。 君たちの世界の歴史でいえば中世ヨーロッパ時代になるんだけど、そこは魔女どころか魔法がないところでね。 簡単に言えば剣が主流の世界なんだ」

「? なんでうってつけなんですか?」

「君の努力次第ではその世界で初めての魔女として歴史に残せるかもしれないよ」

「本当ですか?!」

好は身を乗り出して確認する。

「君の努力次第だけどね。 それでどうする? 行く? 行かない?」

「魔女になれるなら喜んで♪」

「いいよ。 君が魔女として生きていけるように力を与えよう」

そういうと神様は好に触れる。

すると好の体が光りだした。

「これは?」

「魔女だから魔力がないのは不便でしょ」

神様の言葉に納得したのか頷く。

「たしかにあって困るモノではないです」

「それとお望みなら魔法も使えるようにするけど?」

好は少し考えてから首を横に振る。

「せっかくですがそれはやめておきます。 一から魔法を覚える楽しみがなくなってしまうので」

「そうか。 ほかに何か要望はあるかな?」

「魔導書、黒い帽子、黒いマント、杖、黒猫が欲しいです! あと、住む場所は人が誰も立ち入らない秘境みたいな森の奥深くで家の中には大釡を所望します!!」

「ははは、随分欲張りだね。 いいよ」

神様が手を翳すと好の目の前に分厚い魔導書、黒い帽子、黒いマント、杖が現れた。

好は黒い帽子、黒いマントを身に纏い、右手に杖、左手に分厚い魔導書を小脇に抱える。

「場所は・・・ここら辺かな?」

上空に再びスクリーンが表示されて森の奥にある一軒家が映し出された。

外観をぐるっと表示されていると裏手には小さな畑がある。

しばらくすると場面が切り替わり、家の中が表示された。

部屋の中央には魔女が使いそうな大釡が置かれており、その近くには黒猫が身を丸くして蹲っていた。

「どうかな?」

「ばっちりです!!」

要望通りに感激した好は目を輝かせていた。

「それじゃ、これから君を異世界に送るよ。 心の準備はできたかな?」

「いつでもいいですよ!」

好の言葉に神様が頷くと目の前に掌を翳す。

すると好の足元にはいくつもの幾何学模様が現れた。

「それでは君を異世界に転送するよ。 良い魔女ライフを」

「はい!!」

幾何学模様は光を放ち、徐々に光量が増していくとやがて光の柱となった。

あまりの眩しさから好は目を閉じてしまう。

しばらくして光が徐々に弱まっていき、光が消失すると好の姿はどこにもなかった。


さあああああぁ・・・

好は風の音を聞いて目を開ける。

目の前には神様が用意してくれた家があった。

「これはあの白い空間で見た家だわ!」

好は早速家の扉に手を伸ばす。

「楽しみだなぁ~♪」

扉を開けると最初に目に入ったのは憧れの魔女の大釡だった。

その大きさに思わず見とれ目を輝かせている。

「うわぁ~♪ 念願の魔女の大釡だわぁ~♪ むこう(地球)じゃお金や場所とかの問題で手に入れらなかったのよね。 神様、ありがとう」

好は大釡に近づいて触れると頬擦りした。

鉄の冷たい感触がこれは現実だと好に伝えている。

「にゃ~ん」

そこに私もいますよと黒猫がアピールする。

「うふふ、魔女といえば黒猫が使い魔と相場が決まってますからね」

黒猫は好の足元までくると気を許してか足をすりすりする。

好も気に入ったのかしゃがむと黒猫の喉を撫でた。

「名前がないと不憫だよね。 それじゃ、今日から君の名前はクロだよ」

「にゃ~ん」

気に入ったのかクロは一鳴きする。

「よし! やる気が出てきたぞ!」

好は早速魔女として活動を始めた。




異世界に来てから1ヵ月が経過した。

好は火にかけられた魔女の大釜の前にいて、大きな撹拌棒で釜の中にある緑色の怪しい液体をかき混ぜている。

「えっと、ここにヤモリの尻尾と蝙蝠の羽を入れてよくかき混ぜる・・・と」

森の中で苦労して手に入れたヤモリの尻尾と蝙蝠の羽を大釜に入れてかき混ぜる。

すると液体は緑色から紫色へと変色し、そして・・・

ドゴオオオオオォーーーーーンッ!!

大釜の中身が爆発して部屋に煙が充満する。

しばらくして煙が晴れると好の姿がそこにあった。

「けほっ・・・けほっ・・・ぅぅぅ、失敗した」

好は粉塵塗れではあるが怪我はしていない。

よく見ると好の身体は薄い光が覆っている。

「ふぅ、びっくりした・・・」

落ち着いたところで窓を開けると外からの新鮮な空気が部屋の中に入ってきて清らかにしていく。

「先に魔法を覚えて良かった」

好が異世界に来て最初にしたこと、それは魔法を覚えることだった。

元の世界では何の対策もしないで爆発に巻き込まれて死んだ。

だが、今の好には魔力がある。

好は神様から貰った魔導書を開いた。

そして、見つけた魔法は【物理障壁魔法】と【魔法障壁魔法】の2つだ。

これらを使うことで爆発に巻き込まれることはないと考えた。

好はすぐに【物理障壁魔法】と【魔法障壁魔法】の練習をする。

練習を始めて2週間で魔法を習得した。

本来なら幾年もかけてようやく覚えられるのだろうが、好が早く魔女ライフを楽しめるようにと神様が気を利かせてくれたのだろう。

前世で爆死した経験から同じ轍を二度も踏まないようにする好であった。

「あーあ、材料を無駄にしちゃったな・・・」

魔女の大釜を覗くと紫色の毒々しい液体が残っていた。

好はそれをお玉で掬うと透明な瓶に入れて眺める。

「うーん、この世界に来て初めての錬成だから仕方ないけど何か違うな・・・どうすればあのお婆ちゃん(魔女)みたいにできるんだろう?」

好が作ろうとしたもの、それはポーションである。

魔導書に作り方が載っていたのでその通りに作ってみたが、できあがったのはどう見ても毒としかいいようがない紫色の液体だ。

失敗したことに一人悩む好。

ドンッ!!

突然外へと通じる扉に何かがぶつかって大きな衝撃音が家に響いた。

「ふぇっ?!」

あまりの音に好は手に持っている瓶を落としそうになるが慌てて手で押さえる。

瓶を落とさなかったことに安堵すると右手の甲で額を拭う。

「ふぅ、危なかった・・・それにしても何の音だろう?」

好は机の上に瓶を置くと扉に向かいドアノブに手をかけて開ける。

すると扉にもたれかかった何かが重みで倒れてきた。

ズシン・・・

「ひゃっ!!」

好が見たもの、それは血塗れの男性だった。

ブロンドの短髪に上品に整った顔立ち、背は好よりも10センチほど高く、立派な鎧を着こんでいる。

頭や頬、腕には傷を受けたのだろう、そこから血が止めどなく流れていた。

「え? な、なに? し、死んでるの?」

いきなりの展開に慌てる好。

「・・・ぅ、ぅぅ・・・」

男からは微かなうめき声が聞こえてきた。

「! ま、まだ意識がある! えっと・・・えっと・・・」

あたふたしていると机の上に置いた瓶が目に入る。

「こ、これ飲ませても大丈夫かな?」

紫色の液体が『さぁ、その男に飲ませろ』と囁いているように感じた。

「このままじゃこの人死んじゃうし、飲ませてもいいよね?」

好は机の上の瓶をとると男の口を無理矢理開けて紫色の毒々しい液体(ポーションもどき)を流し込んだ。

「!!」

男は目を見開くと喉を押さえて苦しそうにしながら芋虫のように転げまわる。

顔色が蒼褪め、口から泡を吹き、白目になり、そして、動かなくなった。

「し、死んじゃった?」

好が恐る恐る近づくと突然男の身体が光りだす。

「何? 一体何が起きているの?」

最初は強烈な光を放っていたが、徐々に弱まりやがて光が消えるとそこには顔色が良くなった男がいた。

先ほどまであった傷が見事に塞がっているのに好は驚いた。

「嘘・・・傷が治ってる・・・」

好は男の口の近くに耳を近づける。

「すぅ・・・すぅ・・・」

すると微かにだが寝息が聞こえてきた。

「い、生きてる・・・良かった・・・」

男が生きていることに好はホッとした。


「ん・・・」

意識を取り戻したのだろう男がうなり声をあげる。

「・・・?」

男は目を開けると覗き込むように見ている好が目に入った。

「気が付きましたか」

「! ここはどこだ? 君は誰だ?」

「私は好です。 この誰もいないところで一人暮らしをしています」

正直に話すと男は好をジロジロ見て顔を赤らめた。

「あの・・・何か私についていますか?」

「い、いや、何でもない。 俺の名前はカイン、このピスフール王国の第二王子だ」

「はぁ、王子様ですか」

好はそれだけいうと興味がなくなったのかカインから離れる。

「ま、待ってくれ! 君が俺を助けてくれたんだよな?」

「ああ・・・ええ・・・まぁ、そうなるのかなぁ・・・」

好は指で頬を掻きながら曖昧に答える。

(いえない。 怪しい薬(ポーションもどき)を無理矢理飲ませたなんてとてもじゃないけどいえない)

内心焦っているとカインが起き上がる。

「そういえば意識を失う前に喉に粘つく激不味な何か(液体)を飲まされたような・・・」

「き、気のせいでは?」

「うーん、思い出せん」

カインは考えるのを止めると身体を動かす。

「んん、んん、身体が軽い。 怪我をする前よりも調子が良い」

「あ! そういえばどうして怪我をしていたんですか?」

「先日、王国の東にあるこの森に天より光の柱が見えたんだ。 国王の命により部下たちを引き連れて調査に来たんだけどその途中でモンスター(怪物)に襲われてしまったんだ」

話を聞くと好がいるこの森には凶悪なモンスターが住み着いているらしい。

(うーん、そんなモンスターなんて1度も見たことがないんだけどなぁ・・・)

好は知らない。

神様から与えられた膨大な魔力を感じたモンスターたちはあまりの恐怖に好に近づかなかったことを。

「部下たちとはぐれ、モンスターたちの攻撃を受けて死にそうになった時にここ()が見えたからそこまで逃げたんだけどそこで力尽きてしまった」

そのあとは先の通り好が怪しい薬(ポーションもどき)でカインを助けた(?)。

「そうだ! 早く部下たちと合流しなければ! えっと・・・コノミだったか? 本来なら礼をしたいところだが、今は部下たちが気になるのでこれにて失礼する!!」

それだけいうとカインは森に走っていった。

「行っちゃった・・・まぁ、いいか」

好は気持ちを切り替えて魔女の大釜のところに戻ろうとするが足元でクロが一鳴きする。

「にゃ~ん」

「ん? クロ、どうしたの?」

「にゃ~ん」

クロは自分について来いといわんばかりに前を歩きだすので好はそれについていった。

カインが走っていった方へ歩いていくとそこには大勢の騎士たちが深い傷を負ってその場に倒れている。

「な、なんなのこれ?!」

「! コノミ! 助けてくれ! このままじゃ、俺の部下たちが全員死んでしまう!!」

騎士たちの近くには先ほど別れたカインが人命救助をしていた。

しかし、1人でやるにも限界があり、どうしていいのかわからなくなっていた。

「ちょっと待っててください!」

好は家に帰り、怪しい薬(ポーションもどき)を複数の透明な瓶に入れてから持てるだけ持つとカインや騎士たちがいるところに戻った。

「お待たせしました! これを皆さんに飲ませてください!」

「な、なんだ? その怪しい液体は?」

「いいから早く!!」

好とカインは手分けして怪しい薬(ポーションもどき)を騎士たちに飲ませていった。

「ぅぇ・・・」

「ぐぉ・・・」

「がはぁ・・・」

あまりの激不味に騎士たちはカインと同じく顔色が蒼褪め、口から泡を吹き、白目になり、そして、動かなくなった。

「お、おい! この液体は何なんだ?!」

「先ほどあなたに飲ませたのと同じのを飲ませたの」

カインが何かいうよりも早く騎士たちの身体が強烈な光を放ったが、徐々に弱まりやがて光が消えると騎士たちの顔色が良くなっていた。

しばらくすると騎士たちが意識を取り戻し、自分の身体の異変に気付く。

「傷が治ってる」

「もうダメかと思ったのに」

「生きてるぞ」

「お前たち無事だったんだな! 良かった・・・本当に良かった・・・」

カインが騎士たちを見て涙を流す。

「殿下!」

「ご心配をおかけしました!」

一頻り喜び合うとカインが好に頭を下げた。

「ありがとう、コノミ。 君がいなければ俺の部下たちは全員死んでいたよ」

「皆さん無事で良かったです」

好の一言にカインや騎士たちは怪しい薬(ポーションもどき)を見て微妙な顔をする。

「無事・・・なのか?」

「でも怪我は治ったことだし・・・」

「死なずに済んだと考えれば・・・良かったのかな?」

疑問は残るも死ななかったから良しとした。

「そういえばコノミに聞きたいことがあったんだ」

「なんですか?」

「君はなぜこんな危険な森の中で1人で暮らしているんだ?」

「1人じゃないですよ。 クロと一緒だよね」

好は足元にいるクロを見る。

「にゃ~ん」

クロはその通りだといっているようだ。

「まぁ、それは置いといて、コノミ、君に聞きたいことがあるんだ。 君は何者だ? いつ頃から住んでいるんだ?」

「私は魔女になるために日々努力していて、ここには1ヵ月ほど前から住んでます」

それを聞いてカインや騎士たちは驚いた顔をしている。

「で、殿下!」

「もしかすると・・・」

「ああ。 コノミ、君はもしかして我が国に伝わる伝説の聖女なのか?」

カインの言葉に好が否定する。

「聖女? 違います。 私がなりたいのは魔女です。 聖女では決してありません」

「しかし、俺たちの傷を一瞬にして治すなど聖女でなければ考えられないことだ」

「それはたまたま実験で作ったもので・・・とにかく聖女じゃありませんから!!」

好はそれだけいうとカインたちの制止を振り切って家に帰った。




異世界に来てから1年が経過した。

好は魔女になるべく日々精進している。

ただ、あの1件以来1ヵ月に1度この国の王子であるカインが騎士たちを連れて好に会いに来ていた。

毎回酷い怪我を負って好が作った怪しい薬(ポーションもどき)で傷を治すまでがワンセットである。

危険を冒してまで好に会いに来る理由は命を救ってくれた好を王城に招待したいということだ。

好にとっては聖女の称号や華々しい王都に興味がなかったので、その都度丁重に断っていた。

そんなある日、いつも通り魔女の大釜で錬成していると家の扉をノックする音が聞こえた。

コンコンコン・・・

「ん? 誰だろう?」

扉を開けるとそこにはカインと騎士たちがいつも通り負傷しながらも立っていた。

だが、その顔はとても暗い。

「カイン殿下?」

「コノミ、助けてくれ。 このままじゃ我が国が滅びてしまう」

いつもの王城への招待ではなく、危機的状況に助けを求めてきたのだ。

「とりあえずこれを飲んでください」

好は落ち着かせるようにいつもの(ポーションもどき)をカインと騎士たちに渡す。

躊躇しながらも一気に飲み干すカインたち。

身体が発光して傷が治ったことで冷静さを取り戻す。

「落ち着きましたか? それで国が滅びるとかいってましたけど?」

「我が国にモンスターが大量に攻めてきたんだ。 なんとか撃退したが予想以上の被害で、また攻めてこられたら・・・コノミ! お願いだ、力を貸してくれ!!」

カインは現状を話すと改めて好に救援を求めた。

「私は・・・」

「頼む! この通りだ!!」

「我々からもお願い申し上げます」

カインたちは好の前で膝を突いた。

「わかりました。 とりあえず私が作ったのを持って行きましょう」

「ありがとう!!」

好は家の中にある怪しい薬(ポーションもどき)全部をカインや騎士たちに持たせて王都へと向かった。


王都に到着するとそこは戦火のあとのように酷いありさまだ。

多くの者が傷を負い、路上で苦しそうに倒れている。

「これは!!」

「皆! 急いでこれを飲ませるんだ!!」

「「「「「はっ!!」」」」」

好たちは手分けして負傷者に怪しい薬(ポーションもどき)を飲ませていった。

その毒々しい見た目の液体を見て最初こそ戸惑ったものの、ピスフール王国第二王子であるカインに飲めと命令されては渋々飲まざるをえない負傷者たち。

あまりにも激不味に負傷者たちは白目をむくが次には発光して傷が治っていく。

「うお! なんだこの激不味の液体は! 喉に粘ついて気色悪い!!」

「けど、身体の痛みがなくなったわ!!」

「それどころか身体の底から力が漲ってくるぞ!!」

傷が治ったのに素直に喜べない元・負傷者たち。

これで助かったのかと思いきや、負傷者たちがまだまだいるのに持ってきた怪しい薬(ポーションもどき)を全部使い切ってしまった。

「コノミ! あの怪しい液体はまだあるか?」

「カイン殿下、持ってきたのは全部使い果たしてしまいました」

「そんな・・・コノミ、なんとかならないか?」

「なんとかといわれましても・・・」

好は何かないかと左手に持っている魔導書をペラペラと捲る。

「んっと・・・んっと・・・あ、あった! 【回復魔法】! どれどれ・・・」

そこに書かれている【回復魔法】を熟読していく。

「ふむふむ・・・なるほどなるほど・・・初めてだけど試してみますか」

好は近くにいた傷を負って寝ている女の子のところに行く。

「痛いよぉ・・・助けてぇ・・・」

「待ってて、今すぐ助けるから」

好は女の子のお腹に手を当てると【回復魔法】を発動する。

女の子の身体が白金の光に包まれるが、しばらくすると光が収まった。

「! あれ? 痛くない!!」

「良かった・・・上手くいって・・・」

「ありがとう! お姉ちゃん!!」

女の子は起き上がると好の手を取ってお礼をいった。

それを見ていた周りの負傷者たちが好に近づいて懇願する。

「頼む! 俺の傷を治してくれ!!」

「わたしの傷も!!」

「お願いします! この子だけでも助けてください!!」

囲まれて戸惑う好。

「そんなに一遍には無理です! ちゃんと治しますから一列に並んでください!!」

その言葉に負傷者たちは素直に一列に並ぶ。

好は一人一人に【回復魔法】を発動して傷を治していった。


それから2時間後───

最後の負傷者を治し終える。

「ふぅ・・・終わった・・・」

好はやり遂げたのか右手で額の汗を拭う。

そこで終わればよかったが、カインが好のところにやってきて民たちに紹介した。

「皆の者! よく聞け! ここにいるコノミこそ我が国に伝わる伝説の聖女である!!」

完全に油断していた好はカインを止めることができなかった。

「聖女様だ!!」

「伝説は本当だったんだ!!」

「ありがたや、ありがたや」

自分たちを助けてくれた好に皆膝を突いて祈りを捧げる。

「ち、違います! 皆さん聞いてください! 私は聖女じゃなくて魔女です! 私を呼ぶなら魔女と呼んでください!!」

好は皆に向かって訂正を求めた。

「魔女ってなんだ?」

「多分、聖女の親戚みたいなものだろ」

「ならどちらでもいいんじゃないかな」

魔法がないこの世界の者たちには魔女と聖女の違いが判らないのか同類に思われてしまったようだ。

このあと、好は王城へと招かれるがそこでも聖女と呼ばれ、その都度訂正するのであった。




異世界に来てから数十年が経過した。

好は今も森の奥深くの家に住み、魔女の大釜の前で作業に没頭している。

ただ、好の存在を知った者たちが挙って好を手に入れようと森に押し寄せてきた。

最初こそ丁寧に断っていたが、暴力で屈服させようとしたり拉致してまで連れ去ろうとする輩に辟易した好は対策を立てる。

まず、魔導書に掲載されている【火魔法】、【水魔法】、【風魔法】、【土魔法】の四大元素魔法と【光魔法】と【闇魔法】をある程度習得した。

そして、その魔法を使って森全体に金属でできた屈強なゴーレムを配置し、人を惑わす幻覚をかけ、誰をも通さない結界を張る。

魔法の存在すら知らないこの世界の者たちに破る術はなく、これにより好は平穏を手に入れることに成功した。


では、ずっと引き籠っているかと思えばそんなことはなく、1ヵ月に1度だけ箒で空を飛んで町や村に行くとそこで物々交換している。

薬などを卸した見返りに好はワインやチーズなど大量の食料品を手に入れた。

好が卸した物の中で一番人気は以外にも怪しい薬(ポーションもどき)だ。

詳しく調べた結果、意識が飛ぶほど激不味だが、一定時間自身の限界を超える身体能力が身につくことが判明した。

それ以降モンスター退治のときに重宝して使われたそうだ。

ほかにも重傷者がいたら【回復魔法】を使って無料で治した。

その行為を見た者たちは好のことを『聖女様だ!』と崇めていた。

もっとも好が『聖女じゃないです! 魔女です!!』と否定するも誰も聞き入れてくれなかったとか・・・


好の死後、ピスフール王国の歴史には自らを『魔女』と名乗った聖女コノミとして後の世に語り継がれるのであった。


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