エピローグ
あの戦いから、数日が経った。
第20班の拠点は、以前と変わらずそこにあった――だが、空気だけは、確かに変わってしまっていた。
班長であった隼風の席は、空いたまま。
副班長も欠けている今、形式上はただの“班”としての名前だけが残っている。
任務は最低限に縮小され、メンバーはそれぞれ散発的に動くばかり。
声を上げて笑う者も、あの日以来いなかった。
食堂の片隅で、夕音がカップを両手で包みながらぽつりと呟く。
「……班長のいない班って……こんなに静かなんだな」
誰も返事をしない。
ただ、隣で千紗が小さく息を吐き、手元のフォークを弄んでいる。
一方、医療棟の奥――真っ白なシーツに包まれ、少女が眠っていた。
柄本紗彩。前線での重傷から、いまだ目を開けることはない。
ベッド脇には、葵生が座っていた。
葵生の表情は、かつてのやんちゃな面影をほとんど残していない。
あの日の爆発の光景が、まぶたの裏に焼き付いて離れなかった。
「……姉さん……兄さんは……やり遂げたよ」
声は震えていた。
返事がないのはわかっていた。
それでも、話さずにはいられなかった。
窓の外では、夕方の光が滲んでいる。
まるで、どこか遠くの空から兄が見ているような気がした。
その夜、官野が班員全員を呼び出し、集まった。
隼風の名前を正式に班長席から外すこと――しかし班の解散はしないこと――それが決定された。
「……理由は簡単だ」
官野が短く言う。
「お前らにはまだ、やることが残ってる。あいつが背負ってたものを、途中で投げ出すわけにはいかない」
誰も異論を挟まなかった。
静かに頷き合うだけだった。
葵生も、その輪の中にいた。
会議が終わる頃、千紗がふと葵生の肩に手を置いた。
「……次の班長は、きっと――」
彼女はそこまで言って、言葉を飲み込んだ。
葵生も何も言わなかった。
答えを出すには、まだ早すぎると分かっていたから。
翌朝。
湿地帯の外れ、あの戦いの跡地には、野花が風に揺れていた。
誰かが置いたのだろう、小さな白い花束が一つ。
第20班は、班長を失っても消えなかった。
それは、消えない灯のように、小さく、しかし確かに燃え続けていた。
そして――
物語は、次の舞台へと動き始めていた。




