第96話:「風の去ったあと」
湿地帯の縁に、乾いた音がこだました。
地鳴りと共に、空が赤く染まり――誰かの叫び声もなく、ただ爆風だけが、すべてを告げていた。
「……今の、音……」
夕音が振り返る。
陽は無言でその方向を睨みつけていた。
「……嘘でしょ……」
千紗が呆然と呟く。
その瞬間だった。
葵生が、その場に膝から崩れ落ちた。
「……あ……」
声が、震えていた。
震える手で顔を覆い、葵生の瞳からは、止めどなく涙がこぼれ落ちる。
「隼風……兄さんが……」
嗚咽が湿地帯に響く。
「もしかして……」
千紗が、そっと隣にしゃがみ込む。
「……こうなるって……最初から……分かってたの?」
葵生は、泣きながら小さく頷いた。
「……昨日の夜、兄さんから話があったんだ……敵から無限石を奪って……“相打ち覚悟で辰月を止める”って……」
皆が息をのんだ。
「そんな……じゃあ……!」
「止めたよ……もちろん、止めたさ……っ!」
葵生は叫ぶように吐き出した。
「でも……兄さんは笑ってた……『これしかない』って……『これでようやく……全部終わる』って……!」
拳を泥に叩きつける。
「……兄さんはずっと、自分を犠牲にして……誰かを守ってきたんだ……私なんかより、ずっと……ずっと強くて、優しくて……っ」
風が吹いた。
湿った風。
まるで――誰かの背中が、遠ざかっていくような風だった。
「兄さん……!」
葵生は、叫ぶように空を見上げた。
けれど返事は、もうどこにもなかった。
残された者たちの胸に、ぽっかりと穴が開いたようだった。
それでも――誰も、言葉をかけることはできなかった。
ただ、風だけが、静かに吹き抜けていた。




