表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/97

第96話:「風の去ったあと」

湿地帯の縁に、乾いた音がこだました。

地鳴りと共に、空が赤く染まり――誰かの叫び声もなく、ただ爆風だけが、すべてを告げていた。


「……今の、音……」


夕音が振り返る。

陽は無言でその方向を睨みつけていた。


「……嘘でしょ……」


千紗が呆然と呟く。


その瞬間だった。

葵生が、その場に膝から崩れ落ちた。


「……あ……」


声が、震えていた。

震える手で顔を覆い、葵生の瞳からは、止めどなく涙がこぼれ落ちる。


「隼風……兄さんが……」


嗚咽が湿地帯に響く。


「もしかして……」


千紗が、そっと隣にしゃがみ込む。


「……こうなるって……最初から……分かってたの?」


葵生は、泣きながら小さく頷いた。


「……昨日の夜、兄さんから話があったんだ……敵から無限石を奪って……“相打ち覚悟で辰月を止める”って……」


皆が息をのんだ。


「そんな……じゃあ……!」


「止めたよ……もちろん、止めたさ……っ!」


葵生は叫ぶように吐き出した。


「でも……兄さんは笑ってた……『これしかない』って……『これでようやく……全部終わる』って……!」


拳を泥に叩きつける。


「……兄さんはずっと、自分を犠牲にして……誰かを守ってきたんだ……私なんかより、ずっと……ずっと強くて、優しくて……っ」


風が吹いた。


湿った風。

まるで――誰かの背中が、遠ざかっていくような風だった。


「兄さん……!」


葵生は、叫ぶように空を見上げた。

けれど返事は、もうどこにもなかった。


残された者たちの胸に、ぽっかりと穴が開いたようだった。

それでも――誰も、言葉をかけることはできなかった。


ただ、風だけが、静かに吹き抜けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ