第95話:「静寂の決闘」
まばゆい光が世界を覆った。
全ての色が消え去り、ただ“白”だけの空間が広がる。
風も、音も、時間すらも――止まっているようだった。
その中央に、ふたりの姿があった。
柄本隼風。
そして、辰月志楼。
「……ここは?」
隼風が辺りを見回すと、志楼がぼそりと呟いた。
「無限石の暴走によって生まれた空間だ。力と力が干渉しすぎて、世界が一時的に断絶されたんだろうな」
「……つまり、死ぬ直前ってことか」
「ああ。最後に……話すには、ちょうどいい場所だ」
志楼は静かに歩き、隼風の目の前に立つ。
「お前、変わったな。……あの頃のガキとは、違う」
「当然だ。……俺は、仲間に支えられてここまで来た。あんたの“絶望”とは違う道を、俺は選んだ」
隼風の目に宿る光は、揺るぎない。
だが志楼はふっと苦笑する。
「そうか……俺には、それがなかった」
「……」
「世界を憎み、父を憎み、能力を持たない者を見下し……気がつけば、周りには誰もいなかった」
志楼の肩が、少しだけ揺れた。
「正義のつもりだった。選ばれた力が、無力な大衆を導くべきだと……だがな……」
彼は目を伏せた。
「お前の姿を見て……ほんの少しだけ、分かった気がするんだ。父が……“俺”じゃなく、“お前”を選んだ理由が」
「……それでも、お前のやったことは――」
「分かってる」
志楼はゆっくりと頷いた。
「俺は……間違ってたのかもしれないな」
その声には、初めて“悔い”の色が混じっていた。
だが次の瞬間、空間がひび割れる。
白が、崩れていく。
「時間切れか……」
「……もう、戻れないのか?」
「無理だな。これは“お前の無限石”と“俺の無限石”が、相容れなかった結果だ。共鳴し、膨張し、収束を迎える。……俺たちごと、すべてを消し去る」
志楼は懐から、砕けた無限石の欠片を取り出した。
「けど、それでいいのかもしれないな。俺は……選ばれたんじゃなくて、“選ばれたと錯覚しただけ”なのかもな」
「……志楼」
「……兄、だろ?」
隼風は、口を閉じた。
そして、少しだけ寂しそうに笑った志楼に向かって、静かに言葉を返す。
「じゃあ……せめて、最後くらい、正面からぶつかろうぜ。兄貴」
志楼も微笑み返す。
「――ああ。全力でな」
ふたりの間に、風が吹いた。
無限石が、光を放つ。
(紗彩、葵生...後は頼んだ――)
刹那――
世界が、光に包まれた。
そして、すべては――静かに、終わった。




