表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/97

第94話:「風の殉命」

隼風は無限石を握りしめたまま、風を纏い――


高く跳び上がった。


天井すれすれまで舞い上がったその姿は、まるで一条の閃光のようだった。


「――これで、終わらせる……!」


次の瞬間、隼風は真下の辰月に向けて、垂直に落下。


空気を裂き、雷鳴のような音と共に、風の奔流が爆ぜる。


それに気づいた辰月は、顔を僅かにしかめ、すぐさま腕を振り上げた。


「……邪魔だ」


空間を斬るような斬撃が、何本も空中に走る。


光の弧が伸び、斬撃が隼風の体を貫いた――!


「ぐああああああッ!!」


左目が砕け飛び、右腕が断ち切られる。


血飛沫が宙に舞う。


だが――


隼風の速度は落ちなかった。


「っっ……まだだ!! まだ、終わってねえ!!!」


狂気すら宿す叫びと共に、隼風はただ突き進む。


痛みも、命の危機も、何もかもを振り払い――


無限石を握った左手だけで、真っ直ぐに辰月の心臓を狙う。


その瞬間。


「八谷!! 撃てェ!!」


辰月が、振り返って叫んだ。


場の隅で沈黙していた八谷は、ハッと顔を上げ、ポケットの中から細く鋭いナイフを取り出す。


それを隼風に向け、目を細め――


「……もう遅い」


その時だった。


「ああああああッ!!!」


陽の絶叫が、空間を割った。


陽が炎を纏い、まるで火の塊のように駆け抜けた。


ナイフを放とうとした八谷の下に滑り込み――


ドンッ!!


強烈な跳躍で、八谷の顎を真上から蹴り上げた!!


八谷の体が宙に浮き、ナイフが無力に床に転がる。


「ぐっ……!」


八谷は意識を刈り取られるようにそのまま倒れ込んだ。


その隙に――


隼風が、無限石の一撃を辰月へと叩き込む。


命を削り、体を引き裂かれながらも届いた一撃。


空間が、揺れる――!



その場には、風と光と、圧倒的なエネルギーのうねりが広がっていた。


そして――


「……っ、だめだ!」


葵生が、震える声で叫ぶ。


目には涙を滲ませながら、スマホを通して無限石の反応を確認した葵生は、はっきりと悟っていた。


「ここは危ない! 無限石が、崩壊寸前まで暴走してる!」


「爆発が起きる!! 今すぐ、ここから離れろ!!!」


その声に、皆が一斉に顔を上げる。


だが、千紗だけは動けなかった。


「……じゃあ、隼風は?」


掠れた声で問う。


「隼風はどうなるの!? まだ……そこにいるんだよ……!」


葵生は、何かを言いかけた。


でも――


喉が詰まり、何も言葉が出てこなかった。


わずかに震える唇、握りしめた拳。


代わりに、その沈黙がすべてを物語っていた。


「…………っ」


千紗は目を伏せ、唇を噛み締めた。


夕音が肩に手を置き、静かに促す。


「……行こう。今は、生きなきゃ」


葵生は涙を拭い、八谷の方を見た。


気絶して動けないその体を、官野が無言で抱き上げる。


「こいつは、俺が運ぶ。行こう」


そして、皆は振り返らずに駆け出した。


巨大な装置が震え始める音と、隼風の姿が揺れる残像となって、誰の胸にも焼き付いていた。


誰も、何も言えなかった。


ただ――


その背に、風の気配だけが、優しく、切なく、追い風のように吹いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ