第90話:「逆巻く罠風」
隼風と巌谷の死闘は、なおも続いていた。
鋭い風が駆け、重たい斧が唸りを上げる。
ただ互いの攻撃を躱し続ける――
技と力の応酬に、周囲の空気すら張り詰めていた。
だがその最中、宮河が溜め息交じりに呟いた。
「……ねえ、まだ? さっさと決めてくれない? こっちは暇なんだけど」
「……!」
隼風は内心、煽られるような苛立ちを覚えたが、怒鳴り返すことはしなかった。
代わりに、鋭く目を細め、ある“計画”を実行に移す。
「……風向き、よし。タイミングも――今だ」
隼風は咄嗟に進路を変え、逃げるように建物の内部へと駆け込んだ。
「……は? ちょっと! 私を放っといて逃げる気!?」
宮河が怒りを滲ませるが、隼風は振り返りもせず叫んだ。
「待ってろ!! すぐ戻る!!」
巌谷は苦々しく鼻を鳴らした。
「勝負から逃げたか……臆病者が!!」
そのまま、巌谷も足音を響かせて隼風の後を追う――
が、その瞬間だった。
「――“吹き飛べ”」
ズォォォォォン!!!!
突如として、巌谷の足元から爆風が逆巻くように噴き出した。
凄まじい突風が巌谷の身体を浮かし、壁に叩きつけるように吹き飛ばす。
「うお……!?」
驚く暇もなく、彼の手から大斧が離れ、地面を滑って離れていく。
その斧に、誰よりも早く手を伸ばしたのは――隼風だった。
「……いただいた」
引きずるように斧を持ち上げる。
とても重かったが、無理やり風をまとわせて足の速度を上げる。
「まさか……仕掛けてたのか……ッ」
壁際でうめく巌谷を、隼風は一瞥もせずに通り過ぎた。
これは、先程密かに仕掛けておいた“風の罠”――
周囲の空気を一点に“溜め”、その上を踏めば起爆する風圧のトラップだった。
「後は、アイツの所に...!」
重たい斧を引きずるようにして、隼風は風の勢いとともに辰月の元へ走り出す。
その背には、覚悟と責任の風が、しっかりと吹いていた。




