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第9話:「闇に潜む」

シンセシティ西部の住宅地で、不可解な事件が続いていた。住民たちは夜になると、次々と姿を消してしまう。家に鍵をかけていても、誰かが侵入した痕跡もなく、ただ人だけが消えていた。


「また消えたのか?」


隼風は現場となった住宅を見つめながらつぶやいた。第20班のメンバーは、現場で調査を開始していた。白瀬がペンギンを出し、手がかりを探し、千紗が周囲を見渡しながら何かを考え込んでいる。


「痕跡がほとんどないのが気になるな。能力者の仕業か?」


隼風の問いに、千紗が答える。


「その可能性が高いわね。普通の人間ならこんなことはできないもの。でも、一体どうやって……?」


「由莉、何か見つかったか?」


隼風が振り返ると、白瀬は無言で地面に残された微かな足跡を指差した。


「この足跡……途中で消えてる。普通なら何かに乗り移ったり、飛んだりした跡があるはずだけど、そういう感じじゃないわ」


「消えた、か……厄介だな」


隼風がそう言いながら腕を組んだ瞬間、不意に冷たい風が吹き抜けた。そして、次の瞬間――。


「何者だ!」


千紗が叫ぶと同時に、足元の影から何かが飛び出してきた。そのスピードは凄まじく、隼風たちの目にはほとんど捉えられないほどだった。だが、隼風は咄嗟に風のバリアを張り、攻撃を防ぐ。


「誰だ、お前は!」


影から現れたのは、若い女性だった。彼女は18歳くらいの夕音で、鋭い目つきで隼風たちを睨みつけていた。短めの黒髪が影のように揺れ、彼女の全身からは緊張感と怒りが漂っている。


「お前たちが、この地域の人たちを消しているんでしょ! 何を企んでいるの?」


「俺たちが? そんなことをするわけないだろ!」


隼風が叫ぶが、彼女の攻撃の手は止まらない。再び影の中へと潜り込むと、地面を滑るように移動し、隼風たちの背後から拳を繰り出してきた。


「くっ……速い!」


辛うじて攻撃をかわす隼風だったが、彼女の動きはまるで影そのもの。隼風たちは攻撃の隙を与えられず、次第に追い詰められていく。


夕音の誤解


「待て! 話を聞いてくれ!」


隼風が声を張り上げたが、彼女――岩月夕音(いわつきゆうね)の攻撃は止まらない。闇に潜む能力を使い、再び影の中に姿を消した。次にどこから現れるのか分からない緊張感が周囲を包む。


「なんで話を聞こうとしないんだ!?」


「だって、信じられるわけないでしょ!」


突然、影の中から彼女の声が響いた。その声には怒りと悲しみが混じっている。


「この地域には、能力者のせいで家族を失った人がたくさんいる! 私の両親だって……」


その言葉に、隼風たちは息を飲んだ。夕音の声は、抑えきれない感情で震えていた。


「お前たちもどうせ、能力を使って人々を苦しめているんでしょ! この地域の人たちを消したのだって、お前たちの仕業に違いない!」


「違う! 俺たちはユスティティア・ルカヌスだ。事件を解決するために来たんだ!」


隼風の必死の訴えにも、夕音は耳を貸そうとはしなかった。彼女にとって能力者はすべて敵であり、憎むべき存在だったのだ。


再びの攻防


「……話し合うつもりはなさそうだな」


隼風は覚悟を決めると、風を操り、防御態勢を強めた。一方で、千紗と白瀬も彼女の動きを探る。


「隼風、どうするの? これ以上は、彼女を止めるしかないわ」


白瀬が低い声で言う。隼風もそれは分かっていたが、夕音を傷つけずに止める方法を探していた。


「分かった。俺が囮になる。その間に由莉、氷で足元を固めて動きを止めてくれ」


「了解」


隼風がわざと隙を見せると、案の定、夕音は影の中から飛び出してきた。


「甘い!」


彼女の拳が隼風に迫る。だが、その瞬間、地面が一瞬にして凍りつき、夕音の動きが止まった。白瀬のペンギンの氷能力が的確に彼女の足元を捕らえたのだ。


「これで……落ち着いて話を――」


だが、隼風が声をかけようとした瞬間、夕音は再び影の中へと潜り込んだ。


「やっぱり、信用なんてできない……!」


彼女の声だけが路地裏に響き渡る。そして次の瞬間、彼女は再び隼風たちの背後に現れた。


夕音の葛藤


「どうして……どうして、能力者なんかがこの街を救おうとするの?」


夕音の声は震えていた。その問いに、隼風は真っ直ぐな目で答えた。


「俺たちだって、誰かを傷つけたくて能力を使っているわけじゃない。この街の人たちを守りたい。それだけなんだ」


「嘘だ……能力者なんて、みんな自分の力を誇示するために……!」


夕音は涙を浮かべながら叫ぶ。その姿に隼風は心が痛んだ。


「お前が信じてくれないのは分かる。でも、俺たちを敵だと決めつける前に、少しだけでも話を聞いてほしい」


その言葉に、夕音は動きを止めた。影の中から、彼女の揺れる瞳が隼風を見つめる。その瞳には、迷いと怒りが混ざっていた。


------------


夕音の孤独な戦い


数日後、夕音は1人で姿を消した。西部地域を荒らしている悪党たちが集まるという噂を聞きつけ、自分の力で決着をつけようとしたのだ。彼女にとって、それは自身の両親を奪った仇討ちであり、自らの信念を試す戦いでもあった。


「奴らを、この手で……」


夕音は影の中を潜りながら、敵のアジトに忍び込む。その場所は廃工場で、薄暗い内部には何人もの能力者が集まっていた。


「おい、外に見張りは立てたか?」


「問題ない。誰も俺たちの計画には気づいてないさ」


男たちの油断した声が聞こえる。夕音は彼らの背後から影を抜け、静かに現れた。


「誰だ!」


「あなたたちが、この街を混乱に陥れている張本人ね……許さない!」


夕音の拳が一人の男を捉えた。彼女の攻撃は素早く、次々と敵を倒していく。だが、数の差は圧倒的だった。


「囲め! こいつ一人だ!」


能力者たちの連携が進むと、徐々に夕音は追い詰められていった。そして、隙を突かれて拘束されてしまう。


「くっ……!」


「いい度胸だ、こんなところに一人で乗り込んでくるとはな。だが、お前の終わりだ」


20班の援護


そのころ、夕音がいなくなったことに気づいた20班のメンバーは、彼女の行動を知り、すぐに援護に向かっていた。隼風たちは夕音の足跡と情報を頼りに廃工場に辿り着く。


「彼女がここにいるのか?」


「ええ、ここしか考えられないわ」


紗彩が氷の結晶を操りながら答えた。


「時間がない! 行くぞ!」


隼風を先頭に、20班は廃工場へ突入する。彼らは息を合わせて敵の集団に立ち向かい、夕音が捕まっている場所までたどり着いた。


「おい!」


隼風が叫ぶと、夕音は驚いた表情を浮かべた。


「どうして……?」


「お前を放っておけるわけないだろ!」


隼風の言葉に、夕音は目を見開いた。


20班の犠牲


20班のメンバーは全力で敵に立ち向かった。白瀬と紗彩の冷気で敵の動きを封じ、明石千紗は圧倒的な力で突破口を開いた。しかし、敵の数は多く、次第に彼女たちは力尽きていった。


「隼風……あとは任せたよ……」


由莉が最後の力で凍らせた敵を倒すと同時に、その場に崩れ落ちた。千紗も同様に限界を迎え、戦線を離脱する。


「くそっ……これ以上は無理か」


隼風は拳を握りしめた。そして、まだ拘束されている夕音を見つめる。


「お前……助けるぞ! 一緒に戦ってくれ!」


隼風の声に、夕音は驚いた表情を浮かべた。


「なんで……なんで私なんかを……」


「理由なんてない! ただ、お前を見捨てる気にはならない。それだけだ!」


その言葉に、夕音は一瞬戸惑った。しかし、その瞳に隠された真剣な思いを感じ取り、彼女は小さく頷いた。


「……分かった」


隼風は風の刃を使い、夕音を拘束していた鎖を切り裂いた。


隼風と夕音の連携


自由になった夕音は、隼風と背中合わせに立つ。


「お前の能力を生かせるタイミングを作る。俺を信じろ!」


「……分かった。でも、私の名前くらい教えておくべきじゃない?」


その言葉に、隼風は驚きながらも笑みを浮かべた。


「柄本隼風だ。お前は?」


「……岩月夕音。邪魔しないで」


夕音は短く名乗り、影の中に潜り込んだ。隼風は風で敵の攻撃を防ぎながら、夕音に隙を与える。夕音は影の中を駆け巡り、敵の背後から一撃を加えていく。その連携は次第に敵を追い詰め、数の差を覆していった。


「もう一息だ! 夕音!」


隼風の声に応えるように、夕音は最後の力を振り絞った。


「これで終わりよ!」


夕音の拳が、敵のリーダーを捉える。その瞬間、敵は全員戦意を失い、廃工場には静寂が訪れた。


信頼の芽生え


戦いが終わり、夕音は倒れ込んだ隼風を支えた。


「……なんで、そこまでしてくれたの?」


「仲間だからだよ……いや、これから仲間になってくれると信じてるからな」


隼風の言葉に、夕音は初めて心から笑顔を見せた。


「……私、もっと強くなるよ。だから、これからも一緒に戦って」


「もちろんだ。俺たちは20班なんだからな」


そうして夕音は、心から20班を信頼し、新たな仲間としての一歩を踏み出したのだった。




ちょっと長くなってしまいました

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