第89話:「触れらねぬ壁」
重厚な扉を越えた先――
そこはまるで神殿のような、静謐で異様な空間だった。
天井は高く、床には複雑な紋章が刻まれている。
中央にあるのは、光を放つ巨大な装置――その中心に、辰月 志楼が立っていた。
彼の身体を包むように、緑と黒が混ざり合った光の渦が蠢いている。
それは無限石の力の融合――最終段階に入った証だった。
「来たか……20班」
辰月は目を閉じたまま、声だけを響かせた。
千紗の顔が怒りに染まる。
「……よくも……よくも、みんなを!!」
葵生が咄嗟に腕を伸ばす。
「待って、千紗!」
だが、間に合わなかった。
「――行け!!虎!!」
千紗の掌から、虎が吼えるように飛び出した。
その鋭い爪と牙は、空間すら裂かんばかりの勢いで辰月へ突進していく――
だが。
バンッ!!
虎が見えない壁に激突し、轟音と共に弾き返された。
虎は地面に転がり、千紗の足元で霧散する。
「痛っ……なに、これ……」
千紗が唖然と呟く。
その間に、葵生が静かに言った。
「……今の辰月には、下手に攻撃しても意味がない。“無限石の壁”が完成していて、触れただけで即座に弾かれる」
夕音が驚いたように言葉を吐く。
「じゃあ……どうすればいいの? 無限石融合が終わったら……」
だが葵生は答えなかった。
その瞳には、別の何かを見ているような光が宿っていた。
(……まだ、その“時”じゃない。兄さん達が動くまで、今は――)
千紗は俯いたまま、強く拳を握りしめた。
夕音は周囲を警戒しながら、仲間たちの背に立つ。
目の前で、辰月の身体が緩やかに浮かび上がっていく。
融合は、確実に“完成”に向かっていた――
残された時間は、もう――わずか。




