第88話:「紅蓮の限界」
「はっ、まだまだ!」
八谷がニヤリと笑いながら、ボイラー室の配管の影をすり抜ける。
陽の拳が炎を纏い、爆発するような火柱を生み出す。
「焔砕!!」
ドォンッ!!!
空間が揺れるほどの爆音と共に、壁一面が火に包まれ、配管がねじ切られ、金属が溶ける。
火の熱で鉄が軋み、赤熱した壁が波打つ――まるでこの室内が“灼熱地獄”に変わったかのようだった。
だが――
「残念、ハズレ!」
その声は陽の真後ろから響く。振り返ると、八谷がもう別の位置に移っていた。
陽は唇を噛み締める。
(……なんで、当たらないの……!?)
彼女の攻撃は、ここ一帯を焼き尽くすほどの爆熱にも匹敵する。だが、当たらない。
それもそのはず――八谷はこのボイラー室の構造を完璧に把握していた。
配管の位置、視界の死角、跳ね返りの角度――その全てを使って殺意をすり抜け続けていたのだ。
「ここは、私が設計に関わったんだよ。影の仕事だけどね。通気口も抜け道も、全部頭の中に入ってる」
陽の目に、焦りが滲む。
それでも――なおも拳を握る。炎を巻き上げる。
「だったら……全部、焼き払ってやるだけ……!」
彼女の周囲に、灼熱の奔流が巻き起こる。
髪が風で靡き、瞳が赤く燃える。
「紅蓮爆輪ッ!!」
全身から一気に火炎が炸裂し、巨大な火輪が回転しながら四方八方へ爆ぜ飛ぶ。
ボイラーが吹き飛び、鉄骨が焼け落ち、地面さえ黒焦げになる――
それほどまでの、凄まじい攻撃だった。
……だが。
八谷は床下の空洞に逃げていた。
「うーん、惜しいね。あともうちょっとで当たってたかも、普通に」
嘲笑。
陽の視界が、揺れた。
(――っ……)
体が重い。目が霞む。息が、熱い。喉が焼けるように渇いている。
(こんなに能力を……使ったら……)
気づけば、意識が遠のいていた。
火の能力。高出力の連発。密閉された室内。
空気の温度は50度を超え、酸素は薄れ、体温は異常に上昇していた。
八谷は立ち上がる陽を見下ろし、残酷に呟いた。
「やっぱり無理があったねぇ、そんな火力をここで使うなんて」
陽の脚がふらつき、ついに――
ドサッ……
燃えかすと鉄粉の中に倒れ込む。
腕が震え、もう炎は灯らない。
八谷はゆっくりと近づき、しゃがみ込んで耳元で囁いた。
「……ほらね、熱すぎる女ってのは、すぐ燃え尽きるんだよ。」
八谷の口元に浮かぶ、狂気の笑み――
そして、暗転する陽の視界。
物語は、さらに深い絶望へと進み始めていた――。




