第87話:「袋小路」
八谷は、廊下の先――袋小路のような行き止まりへと逃げ込んだ。
「逃げてばっかじゃ、勝てないよ!」
陽が叫びながら迫るが、八谷は振り返りもせず、静かに手を振り上げた。
次の瞬間――
ガン! ガシャアアン!
頭上や周囲の壁から、鉄板や石材、ガラス片が次々と宙に浮かび、陽に向かって一斉に飛来する。
「っ……来るなら、まとめて来なさい!」
陽の足元に赤い炎が渦を巻く。瞬時にその体を中心にして、炎の守りが展開された。
――「炎守」
彼女の体を包むように、炎が円を描き、飛来する全ての物体を焼き払っていく。
ボゥッ!ガキン!
幾つかの刃物や鋭利な破片は弾かれ、燃え、落ちる。だが、それでも八谷は止まらない。
「へえ……さすがは火の使い手。燃えるねえ。でも、」
そう言った瞬間――八谷の姿が霧のように消えた。
「!?」
陽は一瞬で警戒を強める。
(姿を消す……能力じゃない。多分、動きの速さと幻のような“目くらまし”)
ふいに、背後から気配がした。
「いたっ!」
陽は振り返り、拳を叩きつける――が、そこにいた八谷はまたしても掻き消える。
(撹乱……こっちの集中を削って、隙を突くつもり!?)
八谷はあちこちに現れては、すぐに姿を消す。
時には天井から、時には壁の陰から、影のように現れては挑発めいた笑みを浮かべる。
「どうした? 焦ってる? 焦ってるでしょ?」
「……うるさい!」
陽の拳が火柱を伴って壁を砕く。
爆ぜる火花。燃える壁。焦げる空気。
だが八谷はひらりとそれを避け、なおも陽を翻弄し続けた。
(……このままじゃ、じわじわ体力を削られる)
(だけど……)
陽の目が、ギラリと光る。
(あいつは、逃げることしかしてない)
(つまり……近づかれるのが怖いってこと)
拳を握る音が、火花とともに響いた。
「逃げるなよ、八谷……今度は、逃がさないから!」
陽の足元に、再び炎が巻き上がる――
次の一撃は、“仕留める”ための攻撃になるだろう。




