第86話:「反撃の螺旋」
湿地帯の奥、風と鉄がぶつかり合う音が響き渡っていた。
「お前……やるな。だが――まだ足りない」
巌谷 迅はぼそりと呟きながら、手にした巨大な斧を構え直す。その一振りは空気を裂き、重力すら歪めるかのような威圧感を放つ。
隼風は、額の汗を払いながら、息を整えていた。
足元のぬかるみが、ステップを奪う。だが、それでも飛び続ける。
「……簡単には、やられない!」
隼風が風をまとい、再び突進する。
だが、次の瞬間――巌谷の体がブレた。
いや、それは幻だった。
「っ……!」
咄嗟に身を引く。だが遅い。後方から振り下ろされた斧が、隼風の肩をかすめた。
「くっ……!」
痛みとともに血が飛び散る。だが、致命傷ではない。何とか踏みとどまる。
「見えたか……“幻影”の力。無限石の一つだ」
巌谷はゆっくりと笑った。斧の柄には、新たな無限石が埋め込まれていた。
「それだけじゃねえ。次は“神速”だ」
ズン――!
一瞬で巌谷の姿が目の前から消える。
「っ!? 上か――!」
隼風が反応するが、もう遅い。
斧が頭上から振り下ろされ、風の防御ごと吹き飛ばされた。
ドガァンッ!!
爆音と共に地面が大きく抉れる。
隼風は、地面に転がりながら、咳き込みつつも何とか体勢を保つ。
(……強い。やっぱり巌谷は、“ただの戦闘狂”じゃない)
風が乱れ、空間が揺れるほどの力――
巌谷の力は、“無限石”によってさらに増していた。
「……どうした。終わりか、隼風?」
巌谷が、ゆっくりと一歩を踏み出す。
その一歩ごとに、隼風の鼓動が速くなる。
だが、隼風の瞳は消えていなかった。
「終わりじゃない……まだ、“やれる”!」
次の瞬間、隼風の足元に螺旋状の風が巻き起こる。
反撃の狼煙が、再び上がろうとしていた――。




