第85話:「最後の滴」
「これで終わりだ――。」
アカコスが拳を高く振り上げた。
すでに末政は身動き一つせず、視線さえも揺らいでいた。
その体にとどめを刺すだけ。それは、誰が見ても明白だった。
だが――
ズドッ
鈍く重い音が響く。
「……は?」
アカコスの腕が止まり、表情が固まる。
まるで、時間がほんの少しだけ凍りついたかのようだった。
ふと自分の胸元に視線を落とすと、そこには――鋭く尖った水の槍が、真っ直ぐ心臓を貫いていた。
「な……んだ、これ……どこから……水なんて……」
血が喉から滲み出し、アカコスはがくりと膝をついた。
その問いに、かすれた声が応じる。
「……自分の……体の……水分を……使ったのよ……」
そこには、干からびたように肌が乾燥し、唇すらひび割れた末政の姿があった。
「もう……これ以上、能力を使える水は……なかったから……」
その声には、痛みも、悔いもなかった。ただ、清らかで静かな決意があった。
アカコスの視界がぐらつき、崩れるようにその場に倒れ込む。
末政もまた、全身の水分を使い果たし、ゆっくりと力を失っていく。
それでも、その目はしっかりと開かれていた。
ぽつりと、誰かに語りかけるように言葉を紡ぐ。
「セシリア……これで……やっと……仇、取れたよ……」
ぼやける視界の中、どこか遠くに彼女の面影が微かに浮かんだ気がした。
「……待たせて、ごめん……」
そう呟いた末政の身体が、ゆっくりと横たわる。
その場に響くのは、水の滴る音と、静寂だけ。
――こうして、壮絶な一戦は幕を下ろした。




