表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/97

第81話:「感情なき刃」


一方そのころ――


長い廊下を進んでいた陽、千紗、夕音、葵生の4人は、ふと異変に気づいた。


「……今の聞こえたか?」


葵生が低く囁く。


その直後、廊下の奥から重く響く、複数の足音が近づいてくる。


「こっちに向かってくる……!」


陽が息を飲むのと同時に、4人は咄嗟に通路脇の柱の影へと身を隠した。


――カツ、カツ、カツ。


金属音とブーツの踏み鳴らす音が、次第に大きくなってくる。


その影から覗いた先には、複数の武装した敵兵。

全員が銃を構え、警戒しながら通路を進んでいる。


「……捜索してる。完全にバレてるわけじゃないけど、このままじゃ見つかる」


葵生が小声で言うと、その隣で夕音が目を細めた。


「……この明るさなら、使える」


「……え?」


「影が広い。――“テネブリス・スビレ(闇に潜む)”で仕留める」


夕音の声は、いつになく冷静だった。


「任せて。少しだけ待ってて」


「……わかった」


3人が頷くのを見届けると、夕音の雰囲気が一変する。


影の中に足を踏み入れた瞬間、彼女の姿がすうっと闇に溶け込んでいった。


――そして、静寂。


敵兵たちが通路を通過しようとしたその瞬間、


「……っ!?」


気づけば、最後尾の一人が音もなく倒れていた。


それに誰も気づかない。


次の瞬間、また一人。首筋を切られ、声すら出せずに崩れ落ちる。


「なっ……!?」


ようやく異変に気づいた敵兵が振り返る頃には、もう遅い。


彼らの背後――影の中から、すでに夕音が立っていた。


瞳には一片の感情もなく、ただ任務を遂行する者のそれ。


シュッ――


鋭いナイフが正確に喉元を裂き、影の中にその身体が吸い込まれる。


そのまま数秒で、すべての敵が沈黙した。


……影から再び姿を現した夕音の手には、血の滲むナイフ。


「終わった」


そう言って表情ひとつ変えず、ふたりの元に戻ってくる。


千紗は小さく震えていたが、声に出さずにただ見つめる。


葵生は、その戦いぶりに小さく呟いた。


「……やっぱり、影の夕音は、別人みたいだね」


静寂の戻った通路の中、4人は再び歩き出す。


――影の中に潜む者。その刃は、確実に敵を狩り取っていた。


足元に倒れた敵兵たちを一瞥した葵生は、すぐに顔を上げた。


「……敵がここまで来たってことは、どちらかが会敵した可能性が高い」


「どちらか……?」


千紗が問い返すと、葵生は頷く。


「兄さんか、末政さんか。そのどちらかに異変が起きてる。私たちがゆっくりしてる時間はない」


その言葉と同時に、葵生は足を踏み出した。


「……行こう。辰月のもとに向かう」


「オッケー!」


「うん……!」


「了解」


4人は再び駆け出す。薄暗い廊下を、全力で。


その途中、千紗がふと、横を走る夕音に視線を向けた。


「ねえ、夕音ちゃん……」


「なに?」


「……人を、殺すのって……怖くないの?」


その問いに、夕音は一瞬だけ黙った。


だが、走る速度は緩めないまま、まっすぐ前を見据えて答えた。


「……別に」


「え?」


「私は、“正しいかどうか”じゃなくて、“任務かどうか”で動いてる。班長が必要とするなら、それが殺すことでも、迷わない」


夕音の声は、まるで機械のように冷静だった。


その目に、恐れも、迷いもなかった。


千紗はその言葉をすぐには返せなかった。


だが彼女の中で、確かに何かが揺れた。


――この場にいる誰もが、自分なりの“覚悟”を持っている。


千紗は唇を引き結び、ふたたび前を向いた。


その先には、運命を決する最後の戦いが待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ