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第8話:「夜の街」

夜の街、繁華街のネオンが揺れる。隼風は、日々の任務を終えた疲れた身体を引きずりながら帰路についていた。仕事柄、夜遅くに街を歩くことは珍しくない。だがこの夜は、何かが違っていた。


「お兄さん、少しだけ話さない?」


背後から声をかけられる。隼風が振り返ると、そこには20代くらいの女性が立っていた。細身の体にシンプルな黒いコートをまとい、軽く巻いたストールが風に揺れている。だが、彼女の雰囲気はどこか異様だった。ただの通行人とも、よくいるキャッチとも違う独特の空気感をまとっている。


「悪いけど、今は急いでるんだ」


隼風は軽く手を振り、その場を去ろうとする。だが、女性は一歩も引かない。


「急いでるようには見えないけど。それに、あなた、能力者アルターラーでしょ?」


その言葉に、隼風の足が止まった。背筋に軽い緊張が走る。普段、能力者であることを初対面の相手に見抜かれることはまずない。


「何を根拠にそんなことを言うんだ?」


振り返った隼風は、女性をじっと見つめる。その視線にも怯むことなく、彼女は薄く微笑んだ。


「根拠なんてないわ。ただの勘。でも、どうやら当たってたみたいね」


無能力者スタティッカーの女性


隼風は警戒しながら、彼女に問いかける。


「……それで、俺が能力者アルターラーだとして、何の用だ?」


「少し話がしたいの。能力者アルターラー無能力者スタティッカーのことについて」


女性の言葉に隼風は眉をひそめる。これまでにも、能力者としての力を求められたり、非難されたりすることはあった。だが、こんな風に話を求められるのは初めてだった。


「ただの世間話なら、別の相手を探してくれ」


「世間話じゃないわ。真面目な話よ。あなたにとっても無関係じゃないと思うけど」


女性の目は真剣だった。その目に嘘を感じ取れなかった隼風は、ため息をつき、近くの路地へと足を向けた。


「……分かった。少しだけだ」


会話の始まり


路地裏に入り、人の目を避けた隼風は、壁に寄りかかって女性を見やる。


「それで? 話ってなんだ?」


能力者アルターラー無能力者スタティッカー、この街でどんな風に共存してると思う?」


唐突な質問に、隼風は少し考え込む。能力者の増加に伴い、社会は確かに変化していた。技術の進化や犯罪の増加、それに伴う無能力者スタティッカーの反発も日々の任務で感じ取っている。


「共存してる……とは言いがたいな。互いに必要としながらも、どこかで溝ができてる。そう感じることはある」


彼の言葉に、女性はゆっくりとうなずいた。


「その通りよ。無能力者スタティッカーの中には、能力者アルターラーを恐れる人も多い。それは能力者アルターラーが力を使って問題を起こすことがあるから。でも、恐怖だけじゃない。嫉妬や劣等感も含まれてるわ」


「……まあ、分からなくはないな」


隼風も、能力者アルターラー無能力者スタティッカーの間に生じる感情の摩擦を無視できない。能力を持つ者が羨望や恐怖の対象になるのは避けられない事実だった。


女性の思い


「私はね、無能力者なの」


女性はあっさりと自分の立場を明かした。その言葉に隼風は少し驚いたが、表情には出さずに続きを促す。


無能力者スタティッカーとして、この街で生活しているとね、能力者アルターラーの存在がどれだけ大きな影響を与えているか痛感するの。街の発展もそうだけど、影の部分もね」


「影の部分?」


「犯罪よ。能力者アルターラーが引き起こす犯罪。それに巻き込まれる無能力者スタティッカーは増えている。それなのに、私たちは何もできない。ただ、力を持たない自分たちを嘆くしかないの」


彼女の言葉には苦しみが滲んでいた。隼風はそれを否定することができなかった。実際、ユスティティア・ルカヌスの任務の中で目の当たりにする現実は、彼女の言葉を裏付けていた。


「だからといって、全ての能力者アルターラーが悪いわけじゃない」


「それは分かってる。でもね、無能力者スタティッカーから見れば、能力者アルターラーが持つ力自体が脅威なの。どんなに善人だとしても、その力がいつか自分たちを害するかもしれないって考えると、恐怖しかないのよ」


隼風は言葉を失った。彼女の言葉には、能力者である自分には分からない感情が込められていた。


隼風の答え


「……じゃあ、俺たち能力者アルターラーはどうすればいい?」


隼風は真剣に問いかけた。その問いに、女性は少し考え込んでから答えた。


「まずは、無能力者スタティッカーの気持ちを理解すること。それから、自分たちの力がどんな影響を与えているのかを考えることじゃないかしら」


「簡単なことじゃないな」


「簡単じゃないわ。でも、あなたたち能力者がその努力をしない限り、溝は埋まらない」


彼女の言葉に隼風は深く頷いた。彼女の意見には理があり、彼自身も感じていた課題だった。


別れ


「……君、名前は?」


隼風はふと思い立って彼女に問いかけた。だが、彼女は微笑みながら首を振る。


「名前なんて必要ないわ。ただの無能力者スタティッカーだから」


そう言って彼女は踵を返し、夜の街に消えていった。その背中を見送りながら、隼風は深く息を吐いた。


「ただの無能力者スタティッカー……か」


その言葉が隼風の胸に刺さった。彼女が何者であったのか、それは分からない。ただ、彼女の言葉は確実に隼風の心に何かを残していった。


夜の街に響くネオンの光が、どこか冷たく感じられた。隼風は再び歩き出し、帰路を辿る。その足取りは、どこかこれまでとは違っていた。

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