第79話:「終わりに向かう」
――そして、当日の夜が訪れた。
北区、第七封鎖路地。
闇に包まれたその路地には、静かに第20班の5人(隼風、葵生、陽、夕音、千紗)と末政柚奈が集結していた。皆の表情に、覚悟と緊張が宿っている。
「ここで……いいんだよな」
隼風が呟くと同時に――
ザァァ……と、風もないはずの空間が、揺れた。
目の前の空間がぐにゃりと歪み、まるで次元の裂け目のように「門」が現れる。高さ4メートルはある、禍々しくも荘厳な両開きの黒い門。
その中心には、血のように赤く輝く文様が脈打っていた。
門の前に、1人の少女が立っていた。
「やぁ、よく来たね」
白いローブに身を包み、無邪気な微笑を浮かべた八谷泠香だった。
「約束通り、第20班と……末政柚奈だけ。うん、ルールは守ったみたいだね。偉い偉い、普通に」
末政が無言で睨み返すが、八谷は気にする様子もなく、手を差し伸べて門の先を示した。
「この門の先は、長い“廊下”になってる。そのまま普通に“真っ直ぐ”歩き続ければ……“辰月様”にたどり着けるよ」
「……逆に言えば、真っ直ぐ歩かなければ?」
葵生の問いに、八谷は軽く肩をすくめる。
「その時は、まぁ……身の保証はしない。普通にね」
そう言って、にこりと微笑むその姿には、どこか人間離れした狂気がにじんでいた。
「さあ、行ってらっしゃい。“終焉”へ」
第20班と末政は、無言で顔を見合わせると――
やがて一歩、また一歩と、門の中へと足を踏み入れていった。
静寂の中、「真っ直ぐ」の意味を胸に刻みながら。
長く、どこまでも続くかのような石造りの廊下を、第20班と末政の一行は黙々と歩いていた。
壁には一切の装飾がなく、ただ冷たい灰色の石が並び、足音が小さく反響する。まるでこの先にある“終焉”を告げるかのように、空気は張りつめていた。
その時、葵生がふと立ち止まる。そして、何かを確認するように手元の端末をちらりと見てから、静かに指を三本立てた。
隼風と末政が頷き、予定通り廊下から逸れる――右手に伸びる細い通路へ、足音を殺して曲がっていく。
「……ほんとに、バレてないのかな……」
小さな声で呟いたのは千紗だった。彼女の肩は緊張でやや強張っていた。
葵生は振り向かずに、低く落ち着いた声で答える。
「大丈夫。来るまでの間に、監視カメラや感知型のセンサーは確認できなかったし、ここの通路自体に異常は見当たらない」
その言葉に、少しだけ千紗の表情が緩んだ。
だが――
「それでも、そういう能力者がいたらどうするの?」
夕音の冷静な問いに、場の空気が再び張り詰める。
だが葵生はすぐに答えた。迷いのない声で。
「情報は得てる。辰月一派の中で、“監視や探知系”の能力を持ってる幹部はいない。それに、“この門の内部”に集められているのは、選ばれた一部の無能力者だけ……能力を使える者は、私たち以外にはいない」
「……じゃあ、あとは隼風さんと末政さんが、宮河さんを見つけられるかどうかってことか」
千紗がぽつりと呟いた。
誰も応えなかった。
ただ、進むべき“真っ直ぐな道”の奥へ、足音だけが響いていた。
――彼らの背後に迫るものが、まだ静かに蠢いているとも知らずに。




