第71話:「招待」
「……夜明けの門の場所が知りたい?」
突如、空気を裂くように声が響いた。
隼風と末政が一斉に振り返る。
そこに立っていたのは、白く透けるようなローブに身を包んだ、一人の少女――
「八谷泠香……!」
隼風が低く名前を呼ぶ。
末政もすぐに体勢を低くし、水の流れを手にまとわせる。
八谷はふわりと首をかしげた。
「ふぅん……私の名前、なんで知ってるの? 普通に。」
「こっちも情報くらい持ってる。……今さらお前が出てくるってことは、ただの偶然じゃないはずだ」
末政の声は鋭く、隼風もまた風をまとわせて応じた。
だが――八谷は両手をひょいと挙げ、ゆるい声で言った。
「ちがうちがう、今日は戦いに来たんじゃないの。ちゃんとした用事で来たんだよ」
その言葉に、2人は一瞬だけ警戒を緩めた。
「……用事?」
「そう。夜明けの門の場所を、教えに来たの。――“辰月様”のご意向、ってやつ」
「は?」
末政が目を細める。
「いきなりそんな重要な情報を渡すなんて、正気とは思えない。何のつもり?」
八谷はつまらなさそうに頬を膨らませる。
「……だってもうすぐなんだもん、辰月様の“無限石融合”が。完成まで、もう、ほんの少し。だから“客”が必要になったの、普通に。」
「……客?」
隼風がその言葉を繰り返す。
「そう。世界の終わりを、“選ばれし人たち”にちゃんと見せるための。演出っていうか、そういうの、大事でしょ? 」
「……何言ってる」
末政の声は低く、冷たい。
「そんなもん見たくもないし、あんたらの演出に付き合う気もない」
だが八谷は構わず続ける。
「ま、条件があるの。来ていいのは、“第20班のメンバー”と、あなただけ」
「私?」
末政が目を細めると、八谷は無邪気に笑う。
「そう。それ以外の仲間が来たら……即・終焉。世界、ぜんぶ終わらせちゃうから、普通に。」
その言葉に、空気が張り詰めた。
冗談ではない。彼女の瞳には、明確な意思と凶気が宿っていた。
「……それを信じろっての?」
隼風が睨むと、八谷は肩をすくめる。
「別に信じなくていいよ。でも、試すなら――その時は、本当に終わらせるから、普通に。」
末政は黙ってその場を睨みつけていたが、やがて静かに息を吐いた。
「……で、場所は?」
「ふふ、教えてあげる。10日後の夜、北区の第七封鎖路地。そこに、門が開くよ。――“夜明けの門”がね。」
そう言い残すと、八谷は風に乗るようにその場を離れた。
2人の前に残ったのは、張りつめた沈黙と、不穏な運命の入り口だけだった。
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翌日、第20班本部に全員が集められた。隼風は、末政とともに昨日の出来事――八谷泠香との接触、そして“夜明けの門”の情報を伝えた。
言葉が一通り終わると、短い沈黙が訪れる。だが、それを破ったのは葵生だった。
「兄さんが行くっていうなら、私は何も言わないよ。……ついていく。それだけだ」
葵生の目は迷いなく、静かな覚悟があった。
次に声を上げたのは陽だった。拳を握りしめ、悔しさを滲ませる。
「あたしは行く。……前の仲間たちと、塚居さんの仇、絶対に取る。あんなやつらを、放っておけない」
千紗は少しだけ震える手を膝の上で握りしめていたが、それでも顔を上げて言った。
「正直、すごく怖い……でも。私も第20班の一員だから。最後まで、一緒に行くよ」
夕音は静かに立ち上がり、隼風の方を向く。
「班長が決めたことなら...それが正しい。私は従う。」
そして宮河――リィズ・テヘダは、椅子に深く座ったまま興味なさげに天井を見ていた。
「ふーん……どうでもいいわ。あたしの知ったことじゃないけど、ま、そういう時が来たら――少しは手を貸してあげる」
それぞれの覚悟。それぞれの想い。
隼風は、その全てを静かに受け止めると、深く頷いた。
「……ありがとう。行くのは9日後の夜。それまでに、準備を整える」
緊張が走る中でも、その場には確かに“覚悟”が芽生えていた。




