第70話:「涙と誓い」
帰り道。
夕日にはまだ遠い昼下がりの空の下、隼風は人気のない林道をひとり歩いていた。
舗装の途切れたアスファルトの上で、風が草を揺らし、どこか遠くで鳥の声が聞こえる。
だが、隼風の足が、不意に止まる。
「……」
胸の奥に、ぽっかりと穴が空いたような、説明のできない違和感。
風の流れ――いや、空気そのものが、どこかで何かを失ったように静まり返っていた。
そして、突然だった。
視界が滲む。息が詰まる。
溢れた涙が、頬を伝って零れた。
「……師匠……っ」
隼風は拳を握り締め、地面に膝をついた。
何も見えなかった。だが、感じた。塚居が、もうこの世界にいないことを。
その場でしばらくうずくまり、ようやく涙を拭った隼風は、ある場所へと向かった。
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場所を移し、薄暗い高架下の影の中。
そこで彼を待っていたのは、凛とした立ち姿の女――末政柚奈だった。
「……アンタが私を呼ぶなんて、よっぽどのことだね」
「はい……少し、話したいことがありまして」
隼風は深く頭を下げた。
そして、短くも重たい言葉を紡ぐ。
「……師匠、塚居さんが……アカコスに……殺されました」
末政の瞳が見開かれる。
「……は?」
言葉を失ったまま、少し遅れて、彼女は眉をひそめた。
「それ、冗談じゃないよね……。嘘……でしょ?」
「……本当です。あの力、アカコスの力は、間違いなく本物でした」
隼風の声は震えていたが、目に迷いはなかった。
末政は沈黙のまま目を閉じると、短く息を吐いた。
「……塚居さんが……あんな人が、負けるなんて」
静かに震える拳を押さえ、末政は言った。
「で?アカコスはどこに?」
「それが……。場所の手がかりは、まだ何も」
「……そう」
末政は苛立ちを隠さず、コンクリートの柱に拳を軽く打ちつけた。
「――でも、ひとつだけ。気になる言葉を思い出しました」
隼風はふと、あの男の言葉を思い返す。
「……辰月志楼が、以前言っていたんです。“選ばれし者たちよ。集え――『夜明けの門』へ”って」
末政はその言葉を聞き、目を細める。
「“夜明けの門”……? 聞いたことない。でも……」
彼女の表情が、戦士のものに戻る。
「それが奴らの拠点か、あるいは儀式か。どっちにしろ、その言葉が鍵なのは間違いない」
彼女は一歩隼風に近づいて、真っ直ぐに見据える。
「アンタが本気でこの街を守りたいなら、止まっちゃダメだよ、隼風。泣いてる暇も、後ろを振り返る暇もない」
「……わかってます」
隼風はまっすぐに頷いた。師匠の死を無駄にしないために。志楼を止めるために。
「“夜明けの門”……必ず、辿り着いてみせます」




