第68話:「蘇る影」
その瞬間――。
ババババッと鳴り響いていた機関銃の音が、突如としてピタリと止んだ。
辺りに残るのは、破壊された木々の軋む音と、土埃が静かに舞う音のみ。空気が急激に重くなった。
「……止まった?」
隼風が警戒して声を落とす。そのときだった。
「――柄本隼風! 塚居!」
男の怒鳴り声が、谷間に響き渡った。声は低く、だが確かに力強く、どこか不気味な響きを持っていた。
「名前を……?」
「罠か?」
隼風は手を構えるが、塚居がすぐに言う。
「いや……違う、隼風。外に出るぞ。……多分、奴だ」
「奴……?」
塚居は答えず、小屋の崩れた壁からゆっくりと外へ出る。隼風も後に続く。
そして――彼らの目に飛び込んできたのは、坂道の上に立つ1人の男の姿だった。
その男は、陽を背後から羽交い締めにし、その二の腕で彼女の首を絞めていた。
陽は苦しそうに顔をしかめ、抵抗しているが力では敵わない。
「……まさか……!」
隼風の目が大きく見開かれる。
「アカコス・ルナンガ……!」
以前、セシリアと相打ちになり、死んだと思われていた辰月一派の幹部。
その男が、悠然と笑みを浮かべて立っていた。
「やぁやぁ、塚居サン。……生きてたんですねぇ」
アカコスの声は冷たく、感情が削ぎ落とされたような平坦さを帯びている。
しかしその内側に、歪んだ愉悦と殺意が混ざっていた。
塚居は目を細め、静かに吐き捨てる。
「……てめぇこそ、まだ生きてやがったか、アカコス」
「失礼な。死ぬわけないでしょう、私が。……あの程度の“相打ち”で、終わると思いました?」
「その“あの程度”で命を落としたのは、セシリアさんの方だ……!」
隼風の拳が震える。
「……あんたが……あの人を……!」
アカコスは陽の首を少しだけ締め直し、冷笑する。
「――動けば、すぐ殺しますよ?」
陽の顔色が悪くなっていく。
塚居は素早く隼風の前に手を出し、制する。
「……下手に動くな、隼風。コイツ、そういう男だ」
アカコスの目がギラリと光る。
「さすがですね、塚居サン。昔の勘は鈍ってないようで。さて……今日は少し、話をしに来たんです」
陽を盾に、冷酷な幹部は再び笑った。
「“古森至竜”と、“塚居サン”の過去について――ね」
次の一手が、また静かに動き出そうとしていた。




