第63話:「静止の支配者」
すると、静寂を破るように、鋭い破裂音が響いた。
――ズドンッ!
何かが猛スピードで飛来し、宮河の顔面を真正面から狙う。
だがその瞬間、彼女は腕を軽く振るだけでそれを弾き飛ばした。
「……っ!? 狙撃銃を、素手で……!?」
吹き抜け階段の上から、星也の驚愕の声が響く。
「化け物かよ……!」
葵生はその様子を冷静に観察しながら、頭をフル回転させる。
(近距離は危険。触れられたら即アウト……。だとすれば――)
すぐに次の手を打つべく、仲間に指示を出し始める。
「兄さん、陽。囮になってくれ。奴を正面から引きつけて。2人の能力なら、近づかなくても攻撃できる」
隼風が頷く。
「分かった。風でかく乱する」
陽も拳を握りしめる。
「...やってみる」
続けて、葵生は枚方の方を向いた。
「枚方さん、もし2人のうちどっちかがピンチになったら、すぐフォローに入ってほしい。あなたの力……たぶん、こいつに対抗できる唯一の手だ」
枚方はわずかに表情を曇らせるが、すぐに頷く。
「……分かった」
最後に、構える星也に向かって言葉を投げた。
「島原さん、宮河の意識が囮の2人に向いてる時を狙って……確実に、撃ち抜いてください」
星也はにやりと口角を上げる。
「まかせとけ。…こういう役回り、嫌いじゃない」
葵生は全体を見渡し、再度確認する。
ギリ、と葵生は自分の拳を握る。
――静かに、そして確実に、反撃の幕が開けようとしていた。
隼風が風を巻き起こす。空気が渦を巻き、宮河の視界と感覚をかく乱する。
だが彼女は怯まない。
「そんな風ごときで……」
黒い物体を身の周りに展開しながら、隼風に向かって突っ込んでくる。
その瞬間――
「こっちもいるよ!」
陽の声が響き、烈火が風と共に流れ込んできた。炎の渦が黒い物体を飲み込もうとする。
「これでどうだ!!」
だが――黒い物体がうねると、炎ごと吸い込み、まるで最初から存在しなかったかのようにかき消した。
「クソっ!なんなんだあの黒いやつは……!」
宮河はさらに加速し、黒い物体を先端に伸ばしながら、隼風と陽、両者を一気に貫こうとする。
――だが、その刹那。
「そこまで」
枚方が静かに呟いた。
次の瞬間、世界から音が消えた。
空気の振動も、風の流れも、炎の揺らめきも――全てが止まった。
唯一動いているのは枚方一人。
静寂の中、枚方は止まった宮河の背後に回り込み、勢いよく回し蹴りを放つ。
ドンッ!!
止まっていた時間が解けると同時に、宮河の体は吹き飛び、石の壁に激突。壁の一部が崩れ、土煙が上がった。
「……なっ!?」
隼風、陽、そして星也が声を上げる。
「今……何が……?」
枚方はゆっくりとこちらを向きながら説明する。
「私の能力は “オーバークロック”。……この世界の時間を、一定範囲だけ“フリーズ”させることができるの」
静寂の余韻の中、誰もがその力の異質さと規格外さに言葉を失う。
宮河は壁の瓦礫を崩しながらゆっくりと立ち上がる。服の一部は裂け、表情にはわずかな怒気が滲んでいた。
「……まさか、こんな能力がこの街にあるとは...」
葵生は、冷静に宮河の反応を観察しながら、心の中で呟く。
(今が――最大の好機だ)




