第6話:「鉱山の最深部」
鉱山の奥へと続く長い道を進む隼風たちの前に、重厚な扉が立ちはだかった。冷たい金属の表面には、年月を感じさせる錆が浮いている。隼風が扉に手をかけると、微かに震えるような音が響いた。
「これが最深部か…」
隼風が呟く。
白瀬がその隣で、鋭い目つきで周囲を見回す。
「何が出てくるか分からないわ。準備はいい?」
明石が肩を回しながら笑みを浮かべる。「もちろんです!」
扉が開くと、そこには青白い光が渦巻く空間が広がっていた。その中心に立っている男が、こちらをじっと見つめている。
「ようこそ、鉱山の奥へ。」
男――辰月志楼は、無限石を手に持ちながら低い声で言った。
辰月との対峙
隼風が一歩前に出る。
「お前がここを占拠しているリーダーか。俺たちはユスティティア・ルカヌス第20班、柄本隼風だ。」
辰月は少し目を細めた。
「第20班…?聞いたことがないな。それで、俺に何の用だ?」
「お前が無限石を使っているって話を聞いてな。その力、俺たちが止めさせてもらう。」
辰月が小さく笑う。
「無限石か…。確かにこれの力は強大だ。お前たちごときがどうにかできるとは思えないがな。」
そう言うと、彼の体が一瞬で消えた。
「消えた?」
隼風が驚きの声を上げた次の瞬間、風を切る音とともに、辰月の拳が隼風の横顔を掠めた。
「速い!」
隼風がとっさに後退しながら叫ぶ。
「神速…これが無限石の最初の力だ。」
辰月が冷たく言い放つ。
無限石の力
隼風たちは次々と攻撃を仕掛けるが、辰月の速度に翻弄される。白瀬の氷の槍も、明石の幻獣も、全てが空を切った。
「全然当たらない!」
明石が悔しげに拳を握り締める。
「奴の動きに規則性があるかもしれない。集中して読め!」
隼風が冷静に指示を飛ばす。
紗彩が氷の壁を作り、隼風がその影から疾風を放つ。辰月は一瞬だけ動きを止めたが、それも短い時間だった。
「なるほど、チームで動くか。だが、それでは俺を倒せない。」
辰月が不敵に笑うと、再び青白い光が渦を巻いた。
戦闘の終焉と辰月の消失
隼風たちが攻撃を躱し続ける中、辰月は突如動きを止めた。そして、青白い光と共に彼の姿がかき消される。
「逃げた…のか?」
隼風が周囲を見渡すが、辰月の気配は完全に消えていた。
「どういうこと?」
白瀬が困惑した表情で声を漏らす。
「考えるのは後だ。一度、撤収しよう。」
隼風がそう判断した時だった。背後から複数の足音が近づいてきた。
第5班との合流
「第20班の皆さんね。」
落ち着いた声が空間に響いた。振り返ると、二人の女性が立っていた。二人の女性が立っていた。
一人は末政柚奈。身長は高めで、長い黒髪を後ろに結い上げ、洗練された制服風の戦闘服を身にまとっている。全体的に動きやすいデザインだが、肩には班長としての威厳を示す紋章が輝いている。彼女の鋭い目つきと、落ち着いた態度が印象的だ。
もう一人は宮副セシリア。彼女はまるで物語の中から抜け出したような、魔法使い風のローブを身にまとっている。深い紫と黒の色彩が特徴的で、袖や裾には不思議な模様が縫い込まれている。その柔らかな金髪は肩まで届き、大きな帽子をかぶった姿はどこか神秘的な雰囲気を漂わせている。
「私は末政柚奈、第5班の班長よ。」
柚奈が名乗ると、彼女の冷静な声が響いた。
「宮副セシリアです。副班長をしています。」
セシリアは微笑みながら軽くお辞儀をした。
隼風が少し驚いた表情を見せる。
「第5班の…すぐに駆けつけてくれたんですね。」
柚奈が頷く。
「紗彩から、怪しい鉱山があるって通報があったの。調査中の班がいると思ったけど、あなたたちだったのね。」
セシリアが軽く頭を傾ける。
「それで、何があったのかしら?」
「辰月志楼って男がいた。無限石を使っていたけど、戦いの途中で姿を消した。」
隼風が答えた。
「そう…。無限石の力は未知数よ。これ以上の危険を避けるために、一度情報をまとめましょう。」
柚奈が静かに提案すると、隼風たちはその場を後にした。
第20班の振り返り
鉱山での調査を終え、ユスティティア・ルカヌスの本部に戻った第20班。会議室に集まった彼らの前には、第5班の末政柚奈と宮副セシリアの姿があった。
「さて、今回の件で分かったことを整理しましょう。」
末政が冷静に切り出した。
隼風が腕を組みながら答える。
「辰月志楼という男が無限石を使っていた。ただ、能力については完全には把握できなかったけど、少なくとも奴のスピードは尋常じゃない。」
白瀬が頷く。
「あれは普通の能力じゃない。無限石の力…それが何なのかをもっと知る必要があるわ。」
「無限石については私たちも調査を進めているわ。ただ、奴らの正体や目的を掴むのは容易じゃない。」
末政がそう言いながら視線を向けたのは、白瀬と明石だった。
「それよりも、まず君たちに知っておいてほしいことがある。」
ランク制度の説明
「ランク制度については知ってる?」
末政が問いかけると、白瀬と明石は首を横に振った。
「私は聞いたことがないな。」
明石が少し困惑した表情を浮かべる。
白瀬も首をかしげる。
「私も知らない。そんなものがあるの?」
末政は静かに頷き、説明を始めた。
「ユスティティア・ルカヌスには、全ての隊員に適用されるランク制度があるの。Fランクから始まり、SSランクが上限。その上で、各ランクには3級から1級までの区分がある。戦闘力、成果、貢献度に応じてランクと級が決まるのよ。」
「つまり、俺たちにもランクがあるってことですか?」
隼風が尋ねた。
「その通り。そして…さらに上位のランクが存在している。正体は伏せられているけれど、マスターランクと呼ばれるものよ。このランクに属するのは、現在4人だけだと言われているわ。」
末政の声には微かな緊張が含まれていた。
「マスターランク…。そんなのがあるなんて…」
白瀬が驚きの声を上げた。
セシリアが微笑みながら口を開く。
「でも、マスターランクは私たちが知るような存在じゃないの。だから、気にする必要はないわ。ただ、自分たちのランクについては知っておくべきね。」
昇格の知らせ
末政は手元のデータを確認しながら続けた。
「さて、今回の任務での成果に基づいて、第20班のランクが更新されたわ。」
隼風たちは自然と姿勢を正した。
「柄本隼風――A2級からA1級への昇格。」
「柄本紗彩――A1級、現状維持。」
「白瀬由莉――B3級からB2級への昇格。」
「明石千紗――C1級からB3級への昇格。」
それぞれの名前が呼ばれるたびに、4人は驚きと感謝の入り混じった表情を浮かべた。
「俺がA1級か…。次はSランクを目指せってことですね。」
隼風が力強く言うと、末政は軽く笑った。
「期待しているわ。」
白瀬は少し驚いた様子で隼風に問いかける。
「ねえ、隼風。紗彩ちゃんがもうA1級って…どういうこと?」
その質問に、隼風は初めて疑問を抱いた。
「紗彩、お前いつの間にユスティティア・ルカヌスに入ってたんだ?」
紗彩は少し困ったように笑みを浮かべた。
「実はね…兄さんに言わないまま、末政さんに誘われていたの。だから、しばらく訓練に参加してたんだ。」
隼風は驚いた様子で声を上げる。
「なんで俺に言わなかったんだよ!お前、俺の妹なんだぞ!」
「だって、兄さんが反対しそうだったから…。言い出せなかっただけよ。」
紗彩が口を尖らせると、隼風は呆れたように溜め息をついた。
「まあいい。次からはちゃんと言えよ。」
隼風の言葉に、紗彩は小さく頷いた。
次なる戦いに向けて
話し合いが終わり、それぞれの新しいランクに思いを馳せる第20班。
「次はもっと大きな任務が来るかもしれない。」
隼風が呟くと、白瀬が微笑みながら答えた。
「どんな相手でも、私たちなら大丈夫よ。」
第20班の新たな一歩は、さらなる挑戦への始まりを告げていた。