第57話:「損失」
翌日。
ユスティティア・ルカヌス本部から、極秘の報告書が下された。
今回の作戦参加人数――能力者102人。
ストレイロンドを含む無能力者は、600人。
そのうち、負傷者は215名。死者は39名。
この情報が公に出されることはない。だが、第20班の仲間たちはその数字を前に、ただ黙り込んでいた。
静寂を最初に破ったのは、千紗だった。
「……こんなに……こんなにも……人が……」
震える声だった。口にするたび、重みがのしかかる。彼女の手は、気づかぬうちに握りしめられていた。
夕音も、俯いたまま顔を上げられずにいた。
「戦いって、こんなに――簡単に人がいなくなるの?」
その問いに誰も答えられない。
部屋の隅で、高頭陽がゆっくり口を開く。
「この中に……あたしの班も、入ってるんだよな」
ぽつりと落とした言葉は、誰よりも重く響いた。
「あたしだけ、生き残ったんだ……」
彼女の目はどこも見ていなかった。ただ虚空に焦点を失ったまま、悔恨だけをたぐっている。
誰かが慰めようと手を伸ばしかけたが、その手は宙で止まった。
そして、隼風が皆の中心に立つ。
「……戦った結果が、これなんだ」
誰よりも強くなければならないと思っていた彼の声は、今はただ、静かに、沈んでいた。
「だけど……俺たちはこれを知らなきゃいけない。見なきゃいけない。逃げちゃいけないんだ、こんな現実から」
その言葉に、皆がゆっくりと顔を上げる。
千紗も、涙をこらえながら、小さくうなずいた。
「……うん。でも、怖いよ……」
「怖くて、当然だ」
隼風は彼女の言葉を遮らずに受け止める。
「俺だって、怖い。でも……守りたいものがあるから、踏み出すしかない。たとえ、この“現実”が、まだ俺たちには重すぎたとしても」
この瞬間、第20班は一歩、大人になった。
“命”の重さを知った若者たちが、またひとつ“現実”を背負って、進もうとしていた。
「……おーい、兄さん!」
その声に、部屋の全員が顔を向けた。
扉の前に立っていたのは、包帯も傷跡ももうどこにも見えない――柄本葵生だった。
「葵生っ!」
隼風は思わず駆け寄る。
「怪我……もう、大丈夫なのか!?」
「ああ。見ての通り、顔の傷も完全に治った。流石最新医療だな」
そう言って、葵生は軽く笑った。その顔には、戦場で負った痛ましい傷の跡はもうない。だが、葵生の瞳の奥には――確かに、何かを背負った光があった。
「……それでさ。早速なんだけど、任務がある」
部屋の空気がぴんと張り詰める。
「この作戦で、行方不明者が10名出てる。その捜索だ。すぐに現地に向かおう」
隼風がうなずいた。
「分かった。誰が行く?」
「学生組の千紗と岩月さんは、今回は残ってもらう。流石に学業優先だから。」
「じゃあ、行くのは――」
「私、兄さん、陽、それに第14班から島原星也さんが加わる。あとの14班メンバーは別任務中らしい」
その名を聞いて、陽が一歩前に出た。
「……行く。今度こそ、あたしは守る側になる」
彼女の言葉に、隼風も静かに応じた。
「行こう。まだ終わっちゃいない。あの作戦は……“途中”なんだ」
その言葉に、葵生もうなずいた。
「行こう。生きていると信じて、探す」
こうして、第20班+第14班の選抜メンバーによる、新たな任務『行方不明者捜索』が動き出した。




