表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/61

第52話:「夜明けの門」


街中のスクリーンが、一斉にノイズ音と共に切り替わる。


映し出されたのは、暗い照明の中に浮かぶ男の姿――辰月志楼。


その目は鋭く、そして不気味なまでに静かだった。

彼の背後には幾人かの影――おそらく、幹部たち。

彼の声が、まるで世界に染み込むように響いた。


「……聞こえているか、民よ」

 

都市の喧騒が止まり、人々は足を止め、スクリーンに目を向ける。

子ども、老人、学生、会社員――誰もが本能的に、これは“ただの放送”ではないと感じていた。


辰月は、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。


「この国は腐り果てている。

能力者は恐れられ、管理され、力を持つことさえ罪とされてきた。

偽りの秩序と法のもとで、誰もが自由を奪われて生きている」



一瞬、カメラが引き、彼の目が鋭くレンズを射抜く。


「……だが、俺たちは違う。

無限石――それは、真の力を与える“選ばれし者”への証だ。

俺たちは、生まれながらにして弱者だった。

だがこの石は、可能性をくれた。

力なき者にも、世界を変える手段を」


一拍、間が空く。辰月の声が熱を帯びる。


「聞け。今こそ立ち上がる時だ。

抑圧されてきた能力者よ。

未来に希望を見出せぬ者よ。

この国の偽善に飽きたすべての人間たちよ」


「――来たれ、“真の能力者”たちよ。

俺と共に、新たな世界を創ろう」



「能力による秩序、選ばれた者による統治。

無限の可能性を持つ石が、新たな時代の火を灯す。

欲望も、怒りも、悲しみも――そのすべてを力に変えろ!」


映像の後ろに立つ幹部たちが一斉に前へ歩み出し、カメラのフレームに入る。


その一人ひとりが、異様な威圧感を放っていた。

すでに無限石の力を宿しているのは明白だった。


「我々は、世界を変える。

この日を境に、シンセシティは新たな幕を開ける。

抗う者は討ち、従う者には新たな力を与えよう」


辰月は、最後に一言だけ、静かに微笑んだ。


「――選ばれし者たちよ。集え、“夜明けの門”へ」


映像は、バツンと音を立てて切れた。


街は沈黙したまま。

だが、その沈黙の裏で――動き出す者たちがいた。

テレビを見ていた能力者、絶望を抱える者、怒りに囚われていた者――

その目に、かつてない光が宿っていた。


新たな戦乱の火種が、確かに灯されたのだった。




幻影がかき消え、残されたのは静まり返った空間と、立ち尽くす隼風だけだった。

胸の奥で、何かが崩れていく感覚がする。


――辰月の言葉。

――父を殺したという事実。

――真の能力者による支配。


混乱が脳を支配する。思考がまとまらない。


そのとき、背後から駆け足の音が近づいてきた。


「おい! あの放送見たか!?」


仲間の声が飛び込んでくる。官野、廣海、末政の三人が駆けつけた。

彼らの顔にも緊張と苛立ちが滲んでいる。


「……ええ。辰月の、演説ですよね」


「最悪のタイミングで、最悪の爆弾を落としてきやがったな」


「街中のテレビがジャックされたって……今、どこも騒然としてるわよ」


言葉を交わす間もなく、隼風の通信機に緊急通話が入る。


《――こちら天宮。緊急事態発生》


全員が無言で耳を澄ます。


《辰月志楼の演説後、市内各地で支持派による暴動が発生。

建物への襲撃、市民への攻撃、施設の封鎖が確認されている。

現在、ユスティティア・ルカヌスの戦力は“作戦”により各地へ分散中。

対応可能な班は直ちに現場へ向かい、鎮圧にあたれ》


「……辰月の狙いはこれだったのか」

官野が呟く。


あの演説は、ただの思想表明ではない。

暴動を引き起こし、この都市を混乱に陥れる――そのための号令だった。


「迷ってる暇はない。私たちで止めるしかない」

末政は一歩前に出て、短く言い切った。


「天宮さん、場所を。俺たちは出る」


返事を待つことなく、4人は動き出した。

揺らぐ街を守るために――。


「廣海さん、お願いできますか」


隼風がそう言うと、廣海唯子は頷いた。


「ええ。第14班の支部は記憶してるわ。まだ周囲が荒らされていなければ、きっと行けるはずよ」


「本当に助かります……!」


隼風がそう言いながら、自然と彼女の手を取る。廣海もその手をしっかりと握り返した。


「官野さん、末政さんも――手を」


「わかってる。行こう」


官野が無言で手を重ね、末政も表情を引き締めながら続いた。


「一気に移動するわ。しっかりつかまってて」


瞬間、空気がぐにゃりと歪んだ。

視界が一瞬、白く弾け――


次に目を開けたときには、すでに第14班の支部の前に立っていた。


「……成功、ですね」

隼風が周囲を確認しながら、ほっと息をつく。


だが、安堵する時間はなかった。支部の周囲には、すでに何名かの他の班のメンバーと、応急処置を受けている負傷者の姿があった。

建物の外壁には焦げ跡があり、明らかに暴動がここにも及んだ形跡が残っていた。


「……間一髪だったか」

官野が低く呟く。


「これ以上、犠牲を出すわけにはいきません。私たちで止めましょう」


隼風の言葉に、3人の視線が重なる。


「了解。他の班との連携は私が取るわ」

廣海が即座に動き出し、残りの3人も支部内へと駆け込んでいった。


都市を覆い始めた混乱の波――

その最前線へ、彼らは向かっていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ