第51話:「"選ばれし者"たちの革命」
辰月――いや、志楼は、淡々と語り始めた。
「俺の本名は古森志楼。そして……お前の父、柄本研朗の本当の名は古森至竜だ」
「……は?」
隼風は呆然とした。何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
「冗談だろ……兄? 父の名前が偽名? そんなの……」
頭の中が混乱する。だが、次の言葉が、彼を現実へと引き戻した。
「俺は、古森至竜の息子。そして、お前の……異母兄弟だ」
隼風の顔が引きつる。
「聞いたことない……そんな話、母からも一度も……」
「だろうな。あの男はすべてを捨てたんだ。俺たち家族をな」
志楼の声は静かだった。だが、その奥には深い怒りと恨みが滲んでいた。
「俺の母は病弱で、俺が子供のころは寝たきりだった。父は、それでもユスティティア・ルカヌスで戦い続けていた。俺たち家族のためだと信じていた……だが、ある日を境に、奴は忽然と姿を消した」
隼風の胸に、ひやりとした感情が走る。
「母は収入もなく、薬も買えずに死んだ。俺は家を追い出され、路地裏で泥水をすすって生き延びた。……でもな、必死に探し続けたんだ。父を。……再会した時、俺はまだ信じてた。何か事情があったんだと。……でもな」
志楼の顔が歪む。
「奴は、別の女と一緒にいた。笑ってたよ。新しい家。新しい家族。お前も……その中にいたんだよ、隼風」
言葉が出なかった。
「俺は……捨てられた。母も、俺も、捨てられたんだ。……だから、俺は思ったよ。あんな奴、もう父じゃない」
志楼は、腰から何かを取り出した。それは、砕けた無限石の欠片だった。
「偶然、手に入れた。これが俺に、力を与えてくれた。俺は……あいつを、殺した」
「……っ!」
隼風の中で、何かがはじけた。
「な……んだと……」
全身が震えていた。怒り。悲しみ。混乱。いくつもの感情が交錯し、言葉にならない叫びとなって喉を焼く。
「父さんを……殺しただと……?」
「当然だろ。お前の知らない地獄を、俺は味わった。あいつはすべての元凶だ。だから消えてもらっただけの話さ」
「ふざけるなぁッ!!」
隼風は叫び、風が爆発したかのように周囲に渦を巻いた。瞳は怒りで燃え、拳は震えていた。
「アンタなんかが……兄だなんて認めるもんか!!」
「フッ……それでいい。だが俺とお前の因縁は、ここで終わる」
志楼の目にも、今や殺意が宿っていた。
嵐のような感情がぶつかり合う中、二人の激突は、ついに避けられないものとなっていた。
辰月は一歩、また一歩と隼風に近づきながら、静かに語り出した。
「そういえば……お前に俺の“能力”を見せたことはなかったな」
「……能力? お前にそんなもの――」
隼風の言葉が途中で途切れる。首筋に、ひやりと冷たい感触が走った。
ガチャン。
金属の鈍い音とともに、太く黒い鎖が首に巻きついていた。
「なっ……!? いつの間に……!」
「気づくのが遅いな、隼風」
辰月の手元から黒い鎖が這い出し、まるで生き物のようにうねっていた。その鎖は空中を自在に漂い、隼風の動きを確実に封じていた。
「これが俺の能力だ。鎖を操る。対象に気取られることなく、確実に捉える力――そしてこれは、“無限石”の力で得たものだ」
「無限石で……?」
隼風の眉がわずかに動く。
辰月は頷き、懐から砕けた無限石の欠片を取り出した。
「この石には“無限の力”が眠っている。使いこなすことで、能力を得る者が現れる……俺もその一人だ。そして俺の側近たち、幹部連中も、皆無限石に"選ばれた者"たちだ」
「……何のために、そんな力を集めてる?」
隼風が苦しげに言葉を絞り出すと、辰月は笑みを浮かべて答えた。
「決まってるだろう。国家を転覆させるためさ」
「……っ!」
「今の政府は、力を持つ者たちを恐れ、押さえつけている。“才能”を“危険”と呼び、管理し、排除する……だが、それは逆だ。本来、力を持つ者こそがこの世界を治めるべきだ」
辰月の瞳には、確固たる信念が宿っていた。
「無限石に選ばれた“真の能力者”たちが、この腐った国を終わらせ、新たな秩序を築く。それが俺の目的だ」
「それが……お前の正義か……?」
鎖に締めつけられながらも、隼風は睨みつけた。
「そんなもん、認めるわけにはいかねぇ……!」