第50話:「境界を越えて」
隼風は、息もつかずに走り続けていた。廊下を、階段を、あらゆる扉を開けながら、辰月志楼の姿を探し求める。
だが、いくら探しても見つからない。
苛立ちと焦りが募る中、耳元の通信機から声が飛び込んできた。
「隼風さん、聞こえますか? 天宮です!」
「天宮……辰月がどこにいるか分かるのか!?」
「いいえ、でも――こういう大型施設には、無限石の反応を検知できる“レーダー”のような装置があるはずなんです。隼風さん、研究室か制御室を探してください!」
「レーダーか……分かった、探してみる!」
隼風はすぐに方向を変え、それらしい場所を探し始めた。
そして数分後――機材が整然と並ぶ研究室の一角で、彼はそれらしい装置を見つけた。
「これか……!」
慎重に装置を操作すると、モニターが点灯し、施設内のエネルギー反応が表示される。
その中で、ひときわ強く脈動する反応があった。周囲の反応とは明らかに違う。
「無限石の反応、間違いない……!」
隼風はすぐにその方向へと走り出した。今度こそ、辰月志楼を――見つけ出すために。
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無限石の反応を辿り、隼風は息を殺して重厚な扉の前に立った。鉄製の扉は鈍い音を立ててゆっくりと開く。
中は広く、だがどこか圧迫感のある空間だった。壁際には様々な機器が並び、中央にはただ一人の男が立っていた。
辰月志楼――ついに、目の前に現れた。
「辰月……ッ!」
怒りが瞬時に爆発する。隼風はそのまま距離を詰め、拳を振りかざして殴りかかる。
だが、辰月は微動だにせず、それをあっさりと躱した。
「ふむ……短気なのは若さゆえか。だが、せっかく会えたのだ。少し話でもしようじゃないか」
その余裕に、隼風は歯を食いしばる。
「話すことなんて……ない!」
だが辰月の目は冷静そのものだった。
「そう決めつけるには、まだ早いはずだ。君も、真実を知る覚悟があるのならば――」
隼風の怒りと、辰月の静かな態度が、部屋の空気を張りつめさせる。静と動が交差する中、二人の駆け引きが始まろうとしていた。