第48話:「昼間の奴」
「――っ!?」
突然、官野の表情が変わった。直感が全身を駆け抜けると同時に、彼は咄嗟に末政の肩を掴み、瞬間移動の能力を発動した。
「危ない!」
次の瞬間、2人のいた場所に鋭く唸る風音が突き刺さり、銀色の閃光が地面に突き立った。ナイフだ。しかもただの投擲ではない。高速かつ正確に、末政の急所を狙っていた。
「……狙いが正確すぎる」
官野が警戒の目を向け、ナイフの飛んできた方角を睨む。
煙の向こう、瓦礫の影に一人の人物が立っていた。純白のローブに身を包んだ女。その顔はフードに隠れていたが、身体から漂うただならぬ気配は明らかに尋常ではない。
「幹部の一人か!」
末政が歯を食いしばり呟いた。
だが女は彼らの視線を受けるや否や、何も言わずその場を離れ、すぐさま背後の通路へと姿を消した。
「逃がさない!」
末政は立ち上がり、すぐさま追走の構えを見せる。官野もそれに続き、通路の先へと足を踏み入れた。
薄暗い通路の奥に、白い影が一瞬だけちらついた。
「ここで仕留める――!」
重たい空気を切り裂き、2人は敵を追って駆ける。消えた仲間の思いを胸に、決して逃がさぬと、心に誓って。
白いローブの女の姿を追って通路を駆け抜けたその先――
「……しまった!」
末政が反応するよりも早く、四方から乾いた音が響く。機械的な音。銃の安全装置が外される音だった。
次の瞬間、2人の周囲に現れたのは、黒い装備に身を包んだ数十人の兵士たち。銃口が全方向から末政と官野に向けられた。
「完全に囲まれた……!」
末政が低く呟く。官野もすぐに状況を把握し、わずかに身構える。だが、この距離、数。下手に動けば蜂の巣にされる。
そんな中、兵士たちの中から、スッと一人の男が現れた。黒装束に身を包み、顔の下半分を隠した、まるで忍者のような出で立ち。その姿に、官野が目を細めた。
「……あの時の」
男はニヤリと口元を歪めて笑う。
「おやおや、昼間の奴じゃねぇか。まさかまた顔を合わせるとはな」
「九鬼半蔵……!」
「おう、名前を覚えててくれて嬉しいねぇ。だけど残念だ。お前らも、思ったより単純だったなぁ。あからさまな罠にホイホイ引っかかるなんてよぉ」
九鬼半蔵が嘲るように笑った。
その瞬間、兵士たちの銃声が一斉に響く。
末政が水の壁を展開し、官野が能力で移動しながらかわすが、逃げ道はない。
弾丸の雨が容赦なく襲いかかり、水の壁を何重にも張っても、破片と熱が体を焼いた。
「くっ……!」
官野の脇腹に一発が掠め、鮮やかな血が舞った。末政の太ももにも銃弾がかすり、体勢を崩す。だが2人は止まらない。止まれなかった。
「この数じゃ持たねぇな……!」
官野は歯を食いしばりながら、末政の前に立つ。
彼女もまた、苦痛を隠しながら水の刃を飛ばして数人の兵士を撃退したが、それでも包囲は崩れない。
「……末政さん、これ以上は無理だ。俺が囮になる」
「ダメよ、あなたがやられたら!」
その会話すら、息をするように短く交わすだけで精一杯だった。
――そして。
「さすがにしぶといなぁ、お前ら。だが、もう限界だろ?」
九鬼がゆっくりと歩み寄ってくる。刀のような長い手裏剣を回しながら、満足げな声を上げる。
末政の呼吸は荒い。脚は血で濡れ、傷ついた腕はすでに震えている。官野も動きが鈍り、再び撃たれた左肩を抑えていた。
満身創痍。だが、それでも目の光だけは消えていない。
「ここで終わる訳にはいかないのよ!」
末政が血を吐きながら、立ち上がる。官野もそれに倣い、前を見据える。
そして、2人は最後の力を振り絞って、立ち向かう――それが、たとえ無謀でも。




