第46話:「命の弦」
――ギリギリ、と嫌な音がした。
アカコスは眉をひそめ、自らの足元を見下ろす。黒い靴を縫い留めるように、光の弦が何重にも絡みついていた。
「…これは?」
その声に、静かな苦しみを滲ませた笑い声が応えた。
「……こっちが……終わりだって、誰が決めたの?」
セシリアだった。
胸を貫かれたはずの彼女が、地面に崩れながらも身体を起こしていた。
瞳には確かな意志が宿っている。胸から流れる血は止まらず、その顔色は死人のように蒼白だった。
――回想がよぎる。
(この光は……爆発的に増幅できる。ただし、そのときは……)
彼女は自らの能力が生み出す最終手段を知っていた。
光の弦による拘束、そして自爆的な増幅による消滅の光。それは、命を代償とする技だった。
「動けん……っ!」
アカコスは足をもがきながら叫ぶが、光の弦は断ち切れない。
今までの力では到底破壊できないものだった。
その瞬間、末政が目を覚ます。
「……セシリアッ!?」
視界に映るのは、光に包まれながらも穏やかに笑うセシリアの姿。そして彼女の口元が、ゆっくりと動く。
「ごめんね。これが私の選んだ、終わり方―」
末政が叫ぶ。
「やめろっ!! セシリアァァァァ!!」
だが、届かなかった。
眩い閃光が、空間を貫いた。
アカコスの絶叫がかき消される。視界がすべて白に染まり、重く、耳を裂くような轟音が響いた。
そして――全てが、静寂に包まれた。
白い光の中心にいたセシリアの姿は、もうどこにもなかった。
彼女は、最期の力で敵を足止めし、自らの命を捧げて、決着の光を放ったのだった。
***
――轟音が森を突き破った。
「っ……!」
「今の、なに……?」
官野、千紗、夕音、陽。静かなはずの夜を引き裂いた異音に、四人はほぼ同時に飛び起きた。テントの中に緊張が走る。空気はすでに何かがおかしいと告げていた。
官野は黙ってテントのファスナーを開け、外へ飛び出した。
「千紗、双眼鏡!」
「はい!」
千紗が素早く取り出して手渡すと、官野は手に持って木を駆け登る。木のてっぺん、枝に身を預けながら、遠くの方角を覗いた。
「建物……?」
双眼鏡越しに見えたのは、煙が立ち上る空。そして、昼間には存在しなかったはずの、灰色の巨大な構造物――どこか禍々しい、異質な空間だった。
「まさか、セシリアさんたちが!」
官野の心に、悪寒が走った。
「ここは任せる!」
そう叫ぶと同時に、彼の姿は風に溶けるように消えた。空間ごと揺らめき、一瞬にしてその場から姿を消失させた。
「官野さん……!」
残された千紗、夕音、陽の三人は言葉を失いながらも、覚悟を手に取る。
「何があったか分かんないけど……嫌な予感がする」
夕音がぽつりとつぶやき、千紗はその言葉に無言で頷いた。
長い夜の終わりなど、まだ遠いことを、誰もが悟り始めていた。




