第41話:「瞳の殺意」
悪魔の誘い
「ねぇ、聞いているんなら答えてちょうだい♡ この子の命が惜しければね♡」
コルティニーの甘ったるい声が、静寂を引き裂く。
(何? 人質がいるのか……?)
葵生は息を潜めながらも、冷静に状況を整理しようとした。だが、すぐに別の声が聞こえる。
「……っ、やめてください!」
天宮の声だった。
葵生の胸がざわめく。
(くそっ、やっぱり捕まってる!)
「この子が傷つく前に、早く出てきたらどうなの?」
コルティニーの言葉には余裕があった。遊んでいるのだ。
葵生は歯を食いしばる。
銃は持っている。扱いにも慣れている。
——だが、相手は能力者だ。
(下手に動けば、逆にこっちがやられる……)
どうする?
どう動く?
葵生はロッカーの中で、次の一手を必死に考えていた。
無力な叫び
「止まれっ!!」
鋭い声が響いた。
葵生が身を潜めたまま様子を伺うと、そこには銃を構えた滝内の姿があった。
彼の銃口は、コルティニーへとまっすぐ向けられている。
しかし、コルティニーは余裕の表情を崩さない。
「何? おっさんも人質になりたいの?♡」
その甘ったるい声には、嘲笑が滲んでいた。
「天宮を放せ……!」
滝内は警告するが、コルティニーはくすくすと笑う。
「無能力者が、能力者に指示していいわけ?♡」
——その瞬間、滝内の姿がぶれる。
「——ぐっ!?」
コルティニーの拳が滝内の顔面を捉えたのだ。
衝撃で滝内は地面に叩きつけられる。
「滝内さんっ!!」
天宮の悲鳴が響く。
しかし、コルティニーは容赦しない。
ぐしゃっ
倒れた滝内の身体を、コルティニーのヒールが踏みつけた。
一度、二度、三度——
「無能力者が能力者に勝てるわけないじゃない♡ 脳みそが足りないのかしら?♡♡」
乾いた笑い声が響く。
(くっそっ…滝内さんが!)
葵生は奥歯を噛み締めた。
今すぐ飛び出して滝内を助けたい——
だが、それでは無謀すぎる。
(ならば、不意打ち……!)
葵生は静かにロッカーの扉を押し開ける。
足音を消し、一歩ずつ慎重に近づく。
コルティニーは滝内に夢中で、こちらには気づいていない。
(狙える!)
葵生は銃の照準を、確実にコルティニーへと合わせた——。
絶望の一撃
——パンッ!!
乾いた銃声が響いた。
葵生が引き金を引いた瞬間、コルティニーの体が僅かに動く。
次の瞬間——
「ぐぁっ!」
天宮の悲鳴が響いた。
弾丸は、コルティニーではなく天宮の足に当たっていた。
(しまった!)
葵生の思考が凍りつく。
その刹那——
コルティニーと視線が交わる。
その瞳に宿る、殺意。
(あ……)
死が、目の前にあった。
全身の力が抜ける。
崩れ落ちる前に——
「見ぃつけた♡」
——ドンッ!!
鈍い衝撃。
鋼鉄のような拳が、葵生の腹部に突き刺さる。
「……ッ!?」
肋骨の折れる音が響いた。
視界がぶれる。
葵生の体は遠くまで吹き飛ばされ、床を転がる。
——それでも意識は途切れなかった。
痛みが遅れて襲い、血が口から零れ落ちる。
(身体が動かない……)
微かに視界を上げると——
「ふふっ♡ ちゃんと目、覚ましてるじゃない?」
コルティニーが馬乗りになっていた。
笑顔のまま、葵生の顔を覗き込む。
「さぁて♡ 前のお礼を、たっぷりとしないとね♡♡」
葵生の背筋が凍った。
悪魔の微笑み
——バキィッ!!
乾いた音とともに、葵生の顔が横に吹き飛ばされた。
視界がぐるぐると回る。
「あはっ♡ いい音したわね♡」
コルティニーが笑う。
「あら♡ 前の子と同じように、顔がぐちゃぐちゃになっちゃうわ♡♡」
その言葉に、葵生の意識が一気に覚醒する。
「白瀬さんの事かよっ…! 舐めやがって…!」
怒りが込み上げるが、身体は動かない。
「どの口が言ってるのかしら♡」
コルティニーがナイフを取り出した。
「喉を引き裂いちゃうと面白くないから……」
冷たい刃が、葵生の唇に触れる。
次の瞬間——
ズリッ……
「ッ……あがぁぁぁっ!!」
裂かれる感触。
熱い痛みが襲い、葵生の意識が白く染まる。
血が溢れる。
コルティニーは、満足そうに笑った。
救済の光
葵生の喉から、苦しげな呼吸音が漏れる。
しかし、叫ぶ間もなく——
「私にも情けはあるわよ♡」
コルティニーの声が響き、次の瞬間——
ギリッ…!!
強い力で首を締め上げられる。
「あなたも、あの子の元に連れてってあげるわ♡」
視界が滲む。
空気が入らない。
力が抜け、意識が遠のいていく——
だが、
「ルミナ・セカンズ!!」
眩い光とともに、巨大なエネルギー弾が葵生の上を通過していく。
コルティニーは即座に手を離し、後方へ跳躍。
葵生は息を取り戻し、咳き込みながら目を開く。
(この能力は……)
「ちっ……また第5班ねぇ♡」
光の中から、一人の少女が現れた。
宮副セシリア。
「もう誰も……殺させない!!」
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
コルティニーは笑みを深める。
(宮副セシリア……近づけば殺れるチャンスはあるわ♡)
そう思った瞬間、彼女はすでにセシリアへと向かって疾走していた——。




