第36話:「裂けた沈黙」
3人はすぐに、陽の仲間がいる場所へと急いだ。
陽の説明によれば、仲間が待機しているのは森の外れにある小さな集落だった。
到着すると、そこはすでに市民の避難が完了しており、人の気配はなかった。
静寂が広がる中、千紗は周囲を警戒しながら尋ねた。
「……その2人、どこにいるの?」
陽は息を整えながら答える。
「森の入り口付近に隠れているはず……!」
3人は慎重に森の方へと足を踏み入れた。
やがて、木々の間に1人の人影を見つける。
ピリッとした空気をまとい、鋭い目つきをした少年——疏木 侑士だった。
「——陽?」
侑士は驚いたように顔を上げた。その表情には安堵と不安の両方が浮かんでいる。
陽は駆け寄り、必死に問いかけた。
「侑士!もう1人の仲間は!?無事なの!?」
しかし、侑士は険しい顔をして首を振る。
「……それが、さっきまで隣にいたのに、気づいたら消えてたんだ。」
その言葉に、千紗と夕音は緊張を走らせた。
「……また、“見えない敵”かもしれない。」
夕音が小さくつぶやく。
「とにかく、急いで探そう!」
3人は警戒を強めながら、もう1人の仲間の行方を追い始めた——。
侑士は足を押さえながら、痛みに顔を歪めていた。
「足をやられた……走るどころか、立つのも厳しい……」
陽が心配そうに寄り添う。
「そんな……!でも、ここに長くはいられない……どうしよう……」
千紗は考えた後、小さく頷き、右手を前にかざした。
「……この子に乗って。」
次の瞬間、千紗の能力で虎が召喚される。
霧のように現れた虎は、鋭い目を光らせながら、千紗の横にぴたりと座る。
侑士は驚きながらも、陽の助けを借りて虎の背に乗せられた。
「……すげぇ……」
「しっかりつかまっててね。落ちたら痛いどころじゃ済まないから。」
千紗はそう言って虎の背中を軽く叩く。
虎は侑士を乗せたまま、滑るように歩き始めた。
「これで移動はなんとかなるね。急いで、もう1人の仲間を探そう!」
4人は、森の奥へと進んでいった——。
「……誰か、いる。」
森の中を進んでいた4人の中で、最初に異変を察知したのは侑士だった。
彼の声に全員が身構え、周囲を警戒する。すると、木の幹に血まみれの人影が縛り付けられているのが見えた。
「……あれって……!」
陽の声が震える。その人物は、陽たち第21班の仲間の1人だった。
体中に無数の傷があり、かろうじて意識があるように見えた。
「侑士、待って!」
陽が止めようとするが、侑士はその声を振り切り、虎の背から飛び降りて駆け寄った。
「おい!しっかりしろ!」
震える手で縛り付けられた縄を解こうとする——その瞬間。
ガシュッ!
何かが弾けるような音とともに、侑士の手に鋭い刃が突き立てられた。
「っ……!? ぐああああっ!!」
侑士が悲鳴を上げ、血が滴る。
「罠……!」
千紗と夕音がすぐさま構える。
縛り付けられていた仲間の身体がガクンと前に傾く。
その背後から、ぬるりと黒い影が現れた。
「おいおい、単純すぎるなぁ。」
低く嘲るような声とともに、1人の忍者風の男が姿を現した。
黒装束に鋭い目つき。身軽な動きからただ者ではないことがすぐにわかる。
「……九鬼半蔵……!」
千紗が低くその名を呼ぶ。
辰月一派の幹部の1人、九鬼半蔵。
「今はこんなガキ共しか居ないのか? この組織は。」
九鬼は薄く笑いながら、手にした短刀をくるくると回す。
「さあ、どうする? お前らも、そいつみたいに吊るされたいか?」
挑発するように、一歩前に出た。
「4対1だ、数で勝ってるのはこっちだ。」
侑士は痛みに耐えながらも言い返した。
しかし——
「……へぇ?」
九鬼は、顔が隠れていても分かるほどの笑みを浮かべる。
ザッ……
その瞬間、横の茂みが揺れた。
「!」
全員がそちらに目を向ける。
茂みから現れたのは、短い髪の女性だった。
不気味な微笑みを浮かべながら、音もなく侑士へと近づいてくる。
「侑士!下がれ!」
陽が叫ぶ。
だが——遅かった。
気づいた時には、女の手が侑士の肩に触れていた。
「っ……!!」
侑士の身体がビクリと震えた。
死ぬ——そう思った。
だが、何も起こらなかった。
「……え?」
侑士は困惑しながら、ゆっくりと自分の体を見下ろす。
傷はそのままだが、致命傷を受けた様子はない。
触られただけだった。
「……何のつもりだ?」
陽が警戒しながら問いかける。
だが、九鬼とその女はただ笑っていた。
「フフ……」
「くくく……」
2人は確信を持ったような笑みを浮かべ、じっとこちらを見ている。




