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第34話:「決断」

巌谷は無慈悲に斧を振り下ろそうとした。その瞬間――


「疾風一閃。」


鋭い声が響いた。


次の瞬間、猛烈な突風が巻き起こり、巌谷の巨体が吹き飛ばされる。


「ぐおっ……!」


雪煙が舞い上がり、巌谷は数メートル先まで転がった。


そこに現れたのは――隼風だった。


「間に合った……!」


――隼風は息をつく間もなく、戦闘態勢を取る。


「さて……巌谷、お前とは決着をつけないとな……!」


風を纏い、隼風は巌谷の方へと向き直る。


だが――そこには、誰もいなかった。


「……何?」


確かにそこに倒れていたはずの巌谷が、消えていた。


足元には、巌谷が斧を振るっていた跡や、紗彩の血が残っている。しかし、巌谷の姿はどこにもない。


「クソ……逃げられたのか!?」


隼風は周囲を見渡す。だが、気配すらない。


吹雪はまだ完全には止んでいない。巌谷はその混乱に乗じて姿を消したのかもしれない。


「……まずいな。」


巌谷は、紗彩をここまで追い詰めた強敵だ。このまま逃げられれば、またどこかで牙を剥くことは間違いない。


だが、今は追うことよりも、紗彩の無事を確認する方が優先だった。


隼風は荒い息を吐きながら、倒れ込んでいる紗彩に駆け寄る。


「紗彩! しっかりしろ!」


隼風は妹の体を抱き起こす。紗彩の傷は深く、雪の上に赤い染みが広がっていた。意識が朦朧としているのか、彼女はぼんやりと隼風を見上げる。


「……にい……ちゃん……?」


「今すぐ助ける……絶対に、お前を助けるからな!」


隼風の力強い声が、紗彩の心に届いた。


(ああ……お兄ちゃん……)


――時間がない。


隼風は紗彩を背負い、一時前線から離脱することを決意する。だが、事前に聞いていた救護所の位置はかなり遠かった。


焦りが隼風の心を掻き立てる。


「どうする……このままじゃ間に合わねえ……!」


隼風は必死に考えを巡らせていた。


どうすれば――。


「隼風、紗彩を私に任せて。」


そう言って前に出たのは、廣海唯子だった。


「廣海さん……?」


「私の能力、『位置記憶』を使う。細かい制限はあるけど、今は説明してる場合じゃないわ。」


「本当にできるんですか!?」


「やるしかないでしょ。隼風君、私の手を繋いで」


そう言って、廣海は片方の腕で紗彩の体を抱き上げる。


「しっかり掴まっててね、紗彩ちゃん。すぐに安全な場所へ連れて行くから。」


紗彩は微かに唇を動かしたが、もはや言葉にはならなかった。


「頼む……助かってくれ……!」


次の瞬間、眩い光とともに3人の姿が消え去った。

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