第31話:「分裂」
作戦開始——。
隼風たちは森林の中を進み始めた。周囲は木々に覆われ、昼間でも薄暗い。しかし、次の瞬間、異変が起きた。
「……なんだぁ?これ……」
官野が眉をひそめる。
突如として、猛吹雪が降り始めたのだ。
——夏の森林の中で、雪。
これは明らかに異常だった。気温が一気に下がり、視界は真っ白に覆われていく。
「クソッ……! これ、辰月一派の仕業か……?」
末政が歯を食いしばる。
「おそらく、無限石を使った撹乱……!」
千紗が凍えるように腕を抱きながら言った。
「このままだと、まともに動けない……!」
夕音も視界を遮る雪に目を細める。
「ちょっと待って、はぐれる……!」
雪が降るだけでなく、強い風が吹き荒れ、足元も不安定になってくる。全員が焦燥感に駆られるが、ここで冷静な声が響いた。
『……全班、落ち着け。現在の位置を把握する。方角は私が指示する』
通信機から聞こえたのは、葵生の声だった。
「葵生……!」
隼風は通信機を手に取り、必死に応答する。
『現在、第5班、第14班、第20班はまだ接触範囲内にいる。はぐれないように、慎重に進め。北西方向に施設の反応あり。そのまま進め』
「了解……!」
葵生の指示を頼りに、隼風たちは吹雪の中を進む。
見えない敵の気配。
白く覆われた視界。
先の見えない戦場——。
「気をつけろ……何が起こるか分からない」
隼風の言葉に、全員が覚悟を決めた。
だがーー。
「ホワイトアウトよ!」
セシリアの叫び声が吹雪にかき消される。
「こりゃあ非常にまずいな……!」
官野が焦った声を上げる。
「皆、絶対にはぐれないで!!」
末政の必死の呼びかけも虚しく、吹雪はさらに激しさを増していった。
——そして。
視界が完全に真っ白になった。
***
(クソッ……! どこだ……!?)
隼風は顔を覆うように腕を上げながら、周囲を必死に見渡した。だが、何も見えない。ただ白い闇が広がるばかりだった。
「紗彩!夕音! 千紗!」
仲間の名前を叫ぶが、返事がない。風の轟音だけが響く。
——その時だった。
ふっと、吹雪が止まった。
「え……?」
さっきまでの猛吹雪が嘘のように静まり、視界が晴れていく。
だが、そこにいたのは——。
「……廣海さん?」
目の前に立っていたのは、第14班の廣海だけだった。
他の仲間たちの姿は、どこにもなかった。
隼風は息を整えながら、廣海に視線を向けた。
「廣海さん、大丈夫ですか?」
「ええ、なんとかね……。でも、他の皆は?」
廣海も周囲を見回すが、誰の姿もない。静寂が辺りを支配していた。
「……とりあえず、葵生に連絡を取ります。」
隼風は通信デバイスを手に取り、ボタンを押した。
「葵生! 聞こえるか?」
数秒の沈黙の後、ノイズ混じりの声が返ってきた。
『……! 兄さん!? そっちは無事か?』
「廣海さんと一緒にいる。だけど他のみんなとはぐれてしまった。」
『なるほど……。こっちの解析で、兄さんと廣海さんの位置は確認できた。でも、他の仲間の位置はまだ特定できてない。吹雪の影響で、通信データが乱れてるんだ。』
「……マズいな。」
廣海が腕を組みながら小さく呟いた。
『一旦、近くで待機してくれ。仲間の位置が分かり次第、指示を送る。』
「了解……。」
通信を切り、隼風は廣海と顔を見合わせる。
「どうする? 動く?」
「いや、葵生の指示を待ちましょう。変に動いて、さらに散り散りになる方がまずいです。」
「そうね……。でも、こんな異常な吹雪……やっぱり辰月一派の仕業かしら?」
「可能性は高いです。無限石の力かもしれません。」
2人は警戒を強めながら、周囲の様子を探り始めた。