第29話:「廊下に響く雑談」
隼風が第20班の本部へ向かう廊下を歩いていると、向こう側から2人の男女が雑談をしながら近づいてきた。
「でさぁ、結局そいつ、最後まで自分の能力言わなかったんだぜ?」
「ふーん……でも、あんたがそこまで粘るってことは、それなりに興味があったんでしょ?」
「まあな!でもさ、結局何の能力か分かんねぇって、めちゃくちゃモヤモヤするんだよ」
「ほんと単純ね……」
軽い調子で話しながら歩いてくる2人。
男はショートカットの白髪で、紫色のスーツを着ている。
若干目つきが悪く、どこか挑発的な雰囲気を漂わせていた。
隼風は特に気にすることなく、普通にすれ違おうとした——その時。
「——お前、見ねぇ顔だな」
男が興味深げに隼風を見て、足を止める。
(……え?)
隼風も思わず立ち止まり、男と向き合った。
「新人か?っていうか、見た感じまだクソガキだろ?」
挑発的な笑みを浮かべながら、男は近づいてくる。
「いや……まぁ、新人ってほどでもないですけど」
隼風は少し面倒くさそうに答えた。
だが、男はそれを聞いてますます面白がるようにニヤつく。
「何歳だよ?」
「18です」
「18って、まだガキじゃねぇかよ!」
男が大袈裟に笑いながら肩をすくめる。
隼風は若干ムッとしながらも、適当に流そうとしたその時——
隣にいた女が口を開いた。
「ガキって……私たちと4つくらいしか離れてないでしょ?」
その言葉に、男は「……あ?」と間抜けな声を出す。
「別に年齢なんか関係ないじゃない。むしろ、若くしてここにいるなら、それなりに優秀ってことなんじゃない?」
そう言った女は、肩までの黒髪をポニーテールにまとめ、シンプルな黒のジャケットを羽織っていた。
一見落ち着いた雰囲気だが、鋭い目つきと端正な顔立ちから、只者ではない雰囲気を醸し出している。
「はぁ……真面目なやつだな、お前は」
男は軽く頭を掻きながらため息をつく。
「でも、面白ぇじゃん。新人君、どこの班よ?」
男はニヤリと笑いながら、隼風に視線を向けた。
(……なんか、めんどくさそうな人に絡まれたな)
隼風は内心ため息をつきながらも、答えた——。
隼風は少し面倒くさそうにしながらも、真面目な口調で答えた。
「第20班で班長をしています」
そう言いながら、肩についている班長の証である紋章を指で示す。
だが——
「ははっ!マジかよ!」
男は一瞬目を丸くした後、腹を抱えて笑い出した。
「おいおい、ガキが班長とか、随分と時代も変わったもんだなぁ!」
あまりにも露骨に笑われたため、隼風は思わず眉をひそめる。
(……なんなんだこの人)
だが、その時、隣にいた女が冷静に口を開いた。
「第20班って……さっき末政さんから連絡があった、辰月一派の作戦で一緒になる班じゃないの?」
その言葉に、男はピタッと笑うのをやめ、驚いたように彼女を見た。
「は?マジで?」
「あんた、ちゃんと話聞いてなかったの?」
女は呆れたようにため息をつく。
「確か、末政さんが『第20班も作戦に参加する』って言ってたでしょ?」
「いやいや、でもよ? こんな若造がリーダーってのは——」
「関係ないでしょ」
女はバッサリと切り捨てるように言い放つ。
「それに、この人が班長ってことは、それなりに実力があるってことでしょ?」
「……ふーん」
男は隼風をじろじろと見つめながら、顎に手を当てた。
「なるほどな……ちょっと面白くなってきたじゃねぇか」
不敵な笑みを浮かべる男を前に、隼風は小さくため息をついた。
(……この人たち、やっぱり面倒くさそうだな)
隼風は、目の前の二人を見ながら静かに問いかけた。
「じゃあ、あなた達は第14班の方なんですか?」
男はニヤリと笑いながら、胸を張って答えた。
「ああ、そうだ。俺が第14班班長、官野 邦康だ」
隼風が名乗るのを待っていたかのように、官野は続けて隣の女性を指さす。
「こっちは副班長の廣海 唯子」
廣海は控えめな笑みを浮かべながら、軽く会釈した。
「よろしく。私たち、第5班と一緒に作戦に参加するから、今のうちに顔合わせしておきたかったのよ」
官野が腕を組みながら、大きく頷く。
「そういうことだ。で、せっかくだから第14班について教えといてやるよ」
そう言うと、官野はゆっくりと説明を始めた。
「うちの班は5人で動いてるが、今は2人がシンセシティの外に遠征中。で、もう1人は怪我で治療中だ」
「つまり、今回の作戦に参加できるのは、班長である俺と、副班長の唯子の2人ってわけだ」
官野は少し肩をすくめて、苦笑した。
「まあ、普段から戦力不足気味だが、やるべきことはやるさ」
廣海も穏やかな口調で付け加える。
「だから、あなた達第20班とも、しっかり連携を取らないとね」
隼風はその言葉を聞いて、小さく頷いた。
「分かりました。こちらも、よろしくお願いします」
官野はそんな隼風を見て、面白そうに笑った。
「おう、頼むぜ。まあ、お前らがどこまでやれるかは、俺がしっかり見極めてやるけどな!」
隼風は、官野の挑発的な笑みに対し、静かに意志を込めた視線を返した。




