第27話:「夏の訪れ」
束の間の日常
辰月一派の動きが途絶え、しばらくの間、時間が流れた。
月は7月に差し掛かり、街はすっかり夏の気配に包まれていた。
強い日差しがビルのガラスに反射し、アスファルトからは陽炎が立ち昇る。
第20班のメンバーも、久しぶりに戦闘の緊張感から解放され、わずかながらも日常を楽しんでいた。
「暑い……死ぬ……」
中央区のオープンカフェで、隼風がアイスコーヒーのストローをくわえながらぐったりしていた。
「何そのダレっぷり。情けないわね」
隣で冷たいソーダを飲む紗彩が呆れたように言う。
「いやいや、これは普通にやばいって……ほら、葵生も暑いよな?」
「まあ、確かに……でも、私はこういう気候は嫌いじゃない」
そう言って、葵生は持っていた小さな扇風機を回しながら微笑む。
「いいなぁ、それ……俺も買おうかな」
「そんなのより、夏はやっぱりかき氷よ」
紗彩は、隣の屋台で買ってきたブルーハワイのかき氷を頬張る。
「うわっ、頭キーンってしないのか?」
「こういうのは一気に食べるから美味しいのよ」
「なるほど、さすが食いしん坊……って、うわっ!」
突然、隼風の腕に冷たい感触が走る。
驚いて振り向くと、夕音と千紗がいた。
「……ほら、これ」
夕音は手に持ったアイスを無言で隼風に差し出す。
「え、くれるの?」
「……余っただけ」
ツンとした態度を取りながらも、どこか優しげな表情を浮かべる夕音。
その様子を見た千紗がニヤリと笑う。
「ふーん、隼風さん、もしかして夕音とそういう関係?」
「はぁ!? 違うから!」
「ふふっ、冗談ですよ。でも、夏祭りとかあったらみんなで行きたいですね。こういう平和な時間も大事ですよね?」
「そうだな……」
そんな軽口を叩きながら、束の間の平和な時間を過ごす第20班。
しかし——
その平穏は、唐突に破られた。
ーーー
「辰月一派に動きがあった」
ユスティティア・ルカヌスの上層部から、ついに緊急の通達が下った。
「情報部からの提供があった。辰月一派が中央区の大森林に集結するらしい」
夏の陽気に包まれていた街に、再び緊迫した空気が漂い始める。
第20班は、ついに決戦の場へと足を踏み入れることになるのだった。
.........だが。
ユスティティア・ルカヌス第20班本部にて。
辰月一派の動きが明らかになったにも関わらず、第20班に招集の知らせはなかった。
「……なんで俺たちは呼ばれねぇんだよ」
隼風は拳を握りしめ、抑えきれない苛立ちを露わにした。
作戦概要を伝えるホログラムの前に立つ彼の表情は、怒りと悔しさで歪んでいる。
「理由は簡単よ」
紗彩が腕を組み、冷静に言った。
「リスクが高すぎる。私たちの経験が浅すぎる。それだけ」
「チッ……そんなこと言われなくても分かってるよ。でも、それでも——」
「でも?」
隼風は口をつぐんだ。
言いたいことは山ほどある。
だけど、今ここで駄々をこねたところで、何も変わらない。
そんな空気を読んでか、千紗が肩をすくめた。
「ま、私たちが呼ばれないのは当然でしょ。相手はあの辰月一派よ? 下手に突っ込めば、今度こそ全滅よ」
「……それは分かってる。でも、だったらなんで葵生だけ戦略班に抜擢されたんだよ」
「実力の違いじゃない?」
「ぐっ……」
紗彩の容赦ない言葉に、隼風は何も言えなくなる。
「いや、私だって行きたくて行くわけじゃないよ」
その時、静かに会話を聞いていた葵生が口を開いた。
「私は戦うわけじゃない。ただ、戦略班で情報を分析し、作戦の支援をするだけだ」
「それでも、俺たちは現場にすら行けないんだぞ」
隼風は苛立ちを隠せない。
第20班として戦いたいのに、その機会すら与えられない。
「隼風……」
珍しく、夕音が小さく彼の名を呼んだ。
その瞳は、どこか言いたげだった。
「私は……戦いたい」
ぽつりと、静かな声が響く。
「でも、行けないなら、今は待つしかない……」
「……っ」
隼風は夕音を見つめる。
彼女だって悔しいはずだ。
それなのに、冷静でいられるのが余計に歯がゆかった。
「お兄ちゃん、今は私たちができることを考えましょ」
紗彩が真剣な眼差しで言う。
「ただ悔しがるだけじゃ、何も変わらないわよ」
「……クソ」
隼風は奥歯を噛み締める。
戦場には行けない。
だけど——
「俺たちにできること……か」
第20班の戦いは、まだ始まってすらいなかった。




