第26話:「情報収集」
中央区某所 ユスティティア・ルカヌス研究チーム本部
隼風たち三人は、研究チームのリーダーである滝内真裕のもとを訪れた。
「おぉ、君たちか。わざわざご苦労さん」
ラフな口調でそう言うと、滝内は新人の天宮穂実に資料を持ってくるよう指示した。
「はいっ! すぐに持ってきます!」
穂実は元気よく返事をすると、奥の棚へ駆け寄る——が、その直後だった。
「わっ!? きゃああっ!!」
ドサァッ!!
大量の資料が床にぶちまけられる。
「……」
「……」
「……」
隼風、紗彩、葵生の三人は、思わず顔を見合わせ、苦笑した。
「あーあ、やっちまった」
隼風が肩をすくめる。
「なんか……想像以上に派手にやったね」
葵生が呆れ混じりに呟く。
「これ、いつもやってるの?」
紗彩が滝内に目を向けると、彼はため息交じりに頷いた。
「ああ、君は本当に変わらないなぁ」
滝内が苦笑しながら頭をかく。
「す、すみませんっ……すぐ片付けます!」
穂実は真っ赤な顔で慌てて資料を拾い集めた。
「いいから、早く要点だけまとめたやつを出してくれ。君のドジは見飽きてるからね」
「うぅ……」
涙目になりながらも、穂実はようやく資料を揃え、テーブルに並べた。
辰月一派の概要
滝内は手元の資料をめくりながら説明を始めた。
「まず、辰月一派は大多数が能力者で構成されている。以前教えた通り、ほとんどが能力者移民だね。そして、一定以上の実力を持つ者には幹部の地位が与えられ、無限石の力を使用する権限が与えられている」
「無限石を幹部が使えるってことは……単なる雑魚集団じゃないってことだな」
隼風が腕を組む。
「そういうこと。幹部クラスは特に厄介だ」
滝内は幹部リストのページを開き、順番に説明した。
辰月一派 幹部リスト
・コルティニー・ルナンガ
身体能力を一時的に向上させる能力を持つ。
「君たちも戦ったことがあるね。人をいたぶるのが好きな異常者だ。無限石は使っていないらしい」
・アカコス・ルナンガ
コルティニーの兄。能力不明。
「まだ情報が少ない。だが兄妹そろって幹部にいる以上、強いことは確かだろう」
・名前不明(白いローブの女)
物を飛ばす能力を持つ。
「目撃情報が少なく、詳細は不明。ただ、戦闘時には複数の武器を自在に飛ばして戦うらしい」
•九鬼半蔵(おそらく本名ではない)
忍者風の男。
「おそらく葵生君が戦ったやつだね。本物の忍者のように、物に擬態する能力を持つ」
•谷浦砺文
黒い霧を出す能力。移動も可能。
「港湾エリアで逃げられたのはこいつの仕業かな。霧を使って攪乱しながら、すばやく移動できる能力を持っているようだ」
•名前・能力不明の幹部
顔のみ判明。
「こいつについては情報がほぼゼロだ。唯一の手がかりは、奴らの潜伏先を監視していたスパイが送ってきた写真。だが、スパイ自身もその後行方不明になっている」
一通り説明を終えた滝内は、腕を組んで言った。
「こうして並べてみると、やっぱり辰月一派はかなりの実力者揃いだね。しかも、彼らがなぜ無限石を集めているのかがまだ分かっていない」
「……つまり、まだまだ核心には辿り着けてないってことかぁ」
紗彩が小さく息をつく。
「でも、少なくともこれで敵の戦力はある程度分かった」
葵生は資料を見つめながら呟いた。
「そうだね。あとはどうやって辰月一派に接触するかだな」
隼風は顎に手を当てながら考える。
辰月志楼の目的、無限石の真の力、そして未だに謎の多い幹部たち——
戦いの幕は、まだ上がったばかりだった。
滝内が幹部リストのページをめくると、そこにはコルティニー・ルナンガの写真が映し出されていた。
その瞬間、隼風の表情が固まる。
「……っ!」
胸の奥が締め付けられるような感覚。視界に映るその顔——見覚えがあった。いや、忘れようとしても決して忘れられない顔だ。
彼女は、白瀬由莉を目の前で殺害した張本人だった。
一瞬、あの日の光景がフラッシュバックする。由莉の体から血が流れ、冷たくなっていくあの感触。
「……こいつが、白瀬を……」
隼風の拳が震えた。怒りが込み上げる。今にも写真を引き裂きそうになるほどに。
「どうした、隼風?」
滝内が怪訝そうに問いかける。
「……絶対に、こいつを倒す」
隼風は低く呟いた。その声には冷たく、強い決意が滲んでいた。
「……仇を討つ」
握りしめた拳が白くなるほどに、隼風はその誓いを心に刻んだ。
しかし、計画の大枠は見えていた。
葵生の得た情報によると、中央区近くの森林地帯のどこかでテロが始まるということは確かだった。だが、正確な場所や時期は不明。
基地の位置も特定できず、敵がいつ動き出すのかも分からない以上、ユスティティア・ルカヌスは全面的な警戒態勢を敷くしかなかった。
「つまり、俺たちはいつでも動けるように準備しておくしかないってことか……」
隼風が腕を組みながら呟く。
「そうだな」
滝内が頷きながら言う。
「本部としても、各班に非常時への準備を指示する予定だ。辰月一派が動き出す前に、少しでも手がかりを見つけられればいいのだが……」
その場に緊張が走る。敵が仕掛けてくるのは時間の問題。そしてそれを迎え撃つ準備が、自分たちにどこまでできるのか——。
第20班を含め、ユスティティア・ルカヌス全体が、見えない敵に備え始めることとなった。
さらに、ユスティティア・ルカヌスは、唯一のマスターランクである 昇塚 亘を招集することを決定した。
その名前を聞いた隼風と紗彩は、すぐさま滝内に詳しい情報を求めた。
「昇塚亘……? 俺、聞いたことないけど、そんなすごい人なのか?」
隼風が首を傾げる。
「確かに、私も聞いたことないかも……」
紗彩も同意する。
その問いに答えたのは、意外にも葵生だった。
「昇塚は、ユスティティア・ルカヌスで唯一のマスターランク。つまり、現時点で最も高い実力を持つと認められた能力者だよ」
「へぇ……それならもっと有名でもいいのに」
隼風が驚いたように呟く。
「それが、彼の素性はほとんど知られていないんだ。生い立ちや過去の経歴も謎が多いし、能力に関しても詳細は不明。でも、彼の戦績は確かなんだよ」
「戦績?」
「昇塚は、かつての大規模な戦闘で数々の功績を残している。単独でSランク案件の敵を何人も倒し、一度も敗北した記録がない。それどころか、過去の戦闘のほとんどが詳細に記録されていないくらい、あまり表舞台に立つことがないんだ」
「そんな奴がいるのか……」
紗彩が目を見開く。
「さらに、彼は一人で戦うことを好む。だから、周囲からは一匹狼と呼ばれているらしいよ。仲間と組んだ記録もほとんどない」
「へぇ……俺とは正反対のタイプってことか」
隼風は興味深げに呟いた。
「ただ……」
葵生は言葉を濁した。
「ここ数年、消息が途絶えている。誰も彼の行方を知らない。でも、今回の件でユスティティア・ルカヌスは彼を招集しようとしているってことは……もしかすると、彼の居場所を掴んだのかもしれないね」
「ふーん……そんなすごい奴が、俺たちの味方になってくれたら心強いな」
「それにしても、能力が不明っていうのは気になるね……」
紗彩が考え込む。
昇塚 亘——ユスティティア・ルカヌスの最強の戦士。
その存在が、この戦いにどう影響を及ぼすのか。
第20班のメンバーにとっても、未知の要素がまた一つ増えたのだった。




