第2話: 「スカウト」
白瀬由莉をようやく班に迎え入れた隼風だったが、依然として第20班の人数不足は深刻だった。二人だけでは、満足に任務を遂行するのは難しいと感じた隼風は、班を強化するために新たな仲間をスカウトすることを決意する。
中央区――ユスティティア・ルカヌス第20班オフィス
隼風が白瀬に尋ねる。
「白瀬、誰か心当たりはないか?」
白瀬は腕を組み、少し考えてから答える。
「心当たりねぇ……」
「私の後輩に、ちょっと変わった子がいるわ。戦闘力はそれなりにあるし、能力も強い。ただ、すぐには承諾しないかも。」
隼風は興味を引かれた。
「そういう子でいい。会わせてくれないか?」
北区――住宅街の高校
白瀬に案内されて訪れたのは、北区の住宅街にある高校の一角だった。放課後の校庭には生徒たちがちらほらと見受けられる。その中に、ショートカットで眼鏡をかけた小柄な少女が一人、トレーニング用の模擬戦マシンを相手に戦っていた。
「彼女よ、明石千紗。」
白瀬が指をさしながら言った。
隼風はその姿を見て確信した。
「彼女だ!」
スカウト開始
白瀬が叫ぶ。
「千紗!」
千紗は模擬戦を中断し、振り向いた。
「白瀬先輩?それに……誰ですか?」
と、警戒心を抱くように隼風を見つめる。
隼風は自信を持って答える。
「俺は柄本隼風。ユスティティア・ルカヌス第20班の班長だ。君を班にスカウトしに来た。」
「第20班……聞いたことないですね。」
千紗は眼鏡を直しながら冷めた口調で言った。
隼風は続ける。
「そりゃそうだ、できたばかりだからな。でも君の力を見て確信した。君はうちの班に必要な人材だ。」
千紗は少し困惑した様子で白瀬に尋ねた。
「先輩、どういうことですか?」
白瀬は少しの間考えた後、答える。
「まあ、いろいろあったけど、私も第20班に入ったのよ。それで隼風が班を強化したいって言ってて、あんたならうちにぴったりだと思ったの。」
千紗はしばらく黙って考え込み、そしてため息をついた。
「……わかりました。ただし、私の力が本当に必要なら、それを証明してください。」
隼風は即座に提案した。
「証明か……よし、模擬戦をしよう。俺に勝てたら、スカウトを諦める。」
千紗は少し驚いた表情を浮かべ、次ににっこりと笑った。「いいでしょう。望むところです。」
模擬戦――隼風 vs 千紗
模擬戦場に立つ隼風と千紗。周囲には数人の学生たちが集まり、ざわざわと騒ぎ始めていた。
「ちょ、あれ見て!あの虎、まさかドミヌスってやつか!?」
「すげえ、本物初めて見た!明石先輩、こんな力持ってたのかよ!」
開始の合図と同時に、銀色の光に包まれた成体の虎が、咆哮を上げながら隼風に向かって突進する。
隼風はその動きに素早く反応する。風を足元に巻き起こし、次の瞬間には後ろに飛び退きながら虎の猛攻をかわした。その巨大な爪と牙が迫る。だが、隼風は冷静だった。風を操る能力で、体が軽くなる。瞬時に反撃のチャンスを窺う。
千紗の目は鋭く、隼風をしっかりと見据えている。手元が微動だにしないまま、虎を操りながら攻撃を続ける。
「クルッ!」
白瀬のペンギンが軽く鳴く。その声が、隼風の背後から響き、隼風は一瞬、わずかに気を取られる。しかし、それが千紗の意図だと理解するのに時間はかからなかった。
柄本(彼女のドミヌスは近接戦に強い。あの虎の爪、まともに喰らったらひとたまりもない。遠距離戦に持ち込むべきだな。)
隼風は一瞬で風の流れを読み、風を手のひらに集めながら、反撃を考える。しかし、千紗は再び虎を猛進させ、隼風の周囲を囲み始める。
「もう一度来るか……!」
隼風は風を足元に巻き上げ、虎の急襲を受ける直前で一歩後ろに跳んだ。そのまま虎の攻撃をかわし、さらに風の力を使って飛び上がる。空中で回避しつつ、風波動を発動させる。
「疾風一閃!」
隼風の声が響き渡ると、風の波動が虎を押し返す。その強烈な風圧が周囲に広がり、学び舎の学生たちはよろけ、空気が震える。だが、虎はその風波動をものともせず、再び姿を現す。
(ドミヌスの虎……この耐久力は驚異的だ。)
千紗は冷徹な表情のまま、もう一度虎を再召喚して攻撃を続ける。隼風は周囲の風を操り、虎の爪をかわしながら、少しでも隙を作ろうとする。
「近接戦では厳しい……」
隼風は一瞬の隙を見逃さず、風で一気に跳躍。千紗の背後に回り込むと、反撃のチャンスをつかんだ。
「これで……勝負ありだな。」
隼風の声が静かに響き、千紗は肩を落とした。彼女の目にわずかな悔しさが浮かんでいたが、それと同時に、どこか清々しさも感じられる。
明石は苦笑を浮かべると、少し頭を下げた。
「やられましたか。」
隼風は一歩踏み出し、千紗に向かって言う。
「君の能力は強い。でも、まだその力を引き出しきれていない。俺たちと一緒に、その力をもっと活かせる方法を学ぼう。」
千紗は少しの間、何かを考え込んでいたが、やがて頷いた。
「わかりました。私も第20班に入ります。」
その言葉を聞いた白瀬は嬉しそうに手を叩きながら、笑顔を見せた。
「やったぁ!」
隼風も軽く頷きながら、少しだけ肩の力を抜いた。
「これで、班が強くなったな。」
Aランク案件の発生
その夜、新たに千紗を迎え入れ、班員は3人となった。しかし、その時、隼風の通信端末にユスティティア・ルカヌス本部からの緊急連絡が入る。
「Aランク案件発生。中央区南端で不審者が目撃され、捜索を要請。」
「Aランクだと?」
隼風は端末を閉じ、仲間たちを振り返る。
「行くぞ、20班!」
こうして、第20班の新たな挑戦が幕を開ける。