第19話:「暗闇に蠢く影」
黒い霧が漂う中、コルティニーと白いローブの女が姿を現した。
どこかに転送された直後だったが、コルティニーは明らかに苛立っていた。
「はぁ……なんであのクソガキを殺せなかったのかしら?♡」
唇を尖らせながら、隣の泠香に目を向ける。
「ねぇ、泠香?」
「あんまり下の名前で呼ばないでくださいよ……普通に。」
白いローブの奥から冷めた声が返ってくる。
しかし、コルティニーは気にした様子もなく、手をひらひらさせた。
「大体、あんたの転送位置が悪いのよ! あそこで隼風を仕留めるチャンスだったのにさー♡おかげで、スパイの女も逃がしちゃったし♡」
彼女は頭をかきながら、不満げに眉をひそめる。
「えーと、名前なんだっけ?」
そう言って、黒いフードを深く被った男に視線を向ける。
男は、僅かに肩を震わせながら答えた。
「た……谷浦です……」
その瞬間、
ドンッ!!
「っぐあっ!!」
コルティニーが能力を発動し、一瞬で谷浦の足を払った。
彼は地面に押し倒され、次の瞬間――
バキッ!
コルティニーの足が、容赦なく彼の腹を踏みつけた。
「ほんっっっともう♡♡ いつになったら私たちの組織に役立ってくれるのかしらね♡♡谷浦君♡」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
何度も、何度も、踵が叩き込まれる。
「ぐっ……! 申し訳ありません……!」
谷浦は苦しげに謝罪を繰り返した。
だが、コルティニーの怒りは収まらない。
「ねぇ、君♡♡ ここに入ってどのくらい経つんだっけ?」
「に、2ヶ月です……」
「へぇ〜♡ 2ヶ月も経ってるのに、この様?♡」
彼女は足を止め、谷浦の顔を覗き込んだ。
狂気の笑みを浮かべながら、囁くように言った。
「ねぇ♡ 君、ほんとに私たちに必要な人材?♡」
谷浦の表情が凍りついた。
このままでは――殺される。
暗闇に響く声
「おい、コルティニー。その辺にしとけ。」
低く、冷静な男の声が響いた。
コルティニーは、足を止めると同時に口角を上げた。
「あー♡ 兄様、すいません♡ つい♡」
彼女は振り向き、無邪気な笑みを浮かべた。
その場に現れたのは、アカコス・ルナンガ――コルティニーの実の兄だった。
長身で、黒と赤を基調とした装束を纏い、冷たい瞳でコルティニーを見下ろしていた。
「お前の悪いところはそこだ。」
アカコスは溜め息をつきながら言う。
「すぐ人を嬲る。そして、周りが見えなくなることだ。」
コルティニーは肩をすくめる。
「だってさー♡ こいつが使えないのが悪いんだもん♡」
「関係ない。」
アカコスの声が、鋭く響いた。
「いくらお前が気に入らなくても、こいつは辰月様が選んだ人材だ。勝手に殺せば、お前が離反者として処理されることになる。」
コルティニーは舌を出して、ひらひらと手を振る。
「は~い♡ ごめんなさいっ♡」
倒れたままの谷浦は、ようやく息を整えた。
(た、助かった……)
その時、泠香が淡々とした口調で言った。
「まあでも、今回の件は懲罰ありですね、普通に。」
「っ!?」
谷浦は驚愕した。
「ちょっと待っ――」
「じゃ~♡ どんなことされるか分からないけど、頑張ってね♡」
コルティニーが楽しそうに笑う。
次の瞬間、谷浦の体が緑の光に包まれた。
「待っ――」
彼の叫び声が途切れると同時に、姿が消えた。




