第13話:「訓練その2」前編
模擬戦の次の試合は、第5班のセシリアと第20班の隼風、紗彩、白瀬の3対1の戦いが予定されていた。しかし、開始前に紗彩が予想外の提案を持ち出した。
「私が戦うなら、葵生と一緒がいい!」
紗彩は腕を組み、隼風を正面から見据えながら堂々と言い放つ。
「はぁ?なんで俺じゃなくて葵生なんだよ!」
隼風が不満そうに返すと、紗彩は少しムッとした表情で言った。
「だって、葵生は頭が切れるでしょ?戦い方だって工夫すれば何とかなるかもしれないし。それに、葵生と一緒なら……その、楽しいから……!」
紗彩は最後の部分を少し小声で付け加えた。
「いやいや、私は戦いなんてやりたくないんだけど。」
葵生はその場に座り込んでいたが、面倒くさそうにため息をついた。
「紗彩姉さん、私はこういうの向いてないって何度も言ってるんだけど。第一、隼風兄さんと白瀬さんで十分でしょ?」
「でも、葵生なら何かいいアイデアを出してくれるかもしれないし……」
紗彩は必死に食い下がる。
「ほら、いざという時は隠れて指示出してくれるだけでも――」
「いや、絶対無理!」
葵生が強い口調で遮った。
「私は頭使うのは好きだけど、戦場に立つのは論外!お姉ちゃんが好きなようにやればいいでしょ!」
「ちょっと!お姉ちゃんって言わないでって言ってるでしょ!」
紗彩が感情的になり始めた。
「うるさいなぁ、戦場に立たせようとするくせにそんなことで怒るなよ...」
葵生は少し苛立った様子で口を尖らせた。
「第一、隼風兄さんがいるんだから十分でしょ。私が出たら足引っ張るだけだろ!」
「それは違う!」
紗彩が大声を上げた。
「葵生なら絶対に――」
「はいはい、そこまで!」
隼風が大きく手を振り、二人の言い争いを遮った。
「紗彩、葵生が嫌がってるなら無理に巻き込むな。葵生、お前もそこまで言わなくていいだろ。口調が荒れてきてるぞ。」
葵生は少し気まずそうに目を逸らしながら、隼風に言い返した。
「……だって、無理なものは無理なんだよ。」
「じゃあ、私も出ない!」
紗彩が腕を組み直してそっぽを向いた。
「なんでそうなるんだよ!」
隼風が声を上げるが、紗彩は聞く耳を持たない様子だった。
「分かった。紗彩は休んでろ。白瀬と俺でやるからな。」
「ふん!」
紗彩はぷいっと顔を背けると、そのまま隅の方に座り込んでしまった。
「まったく……」
隼風はため息をつきながら、白瀬に目を向けた。
「悪いな、白瀬。二人で行こう。」
「気にしないで。むしろその方が集中できるわ。」
白瀬は涼しげな笑みを浮かべた。
舞台は、高層ビル街の夜。ネオンが煌めき、暗闇の中に幾つもの明かりが灯る幻想的な都市空間が広がっている。
「じゃあ、始めようか。」
セシリアが軽く笑みを浮かべると、その周囲に不気味な光が揺らめき、空間が微かに震えるような感覚が走った。
開始の合図とともに、隼風と白瀬は隠れるために近くのビルの陰に飛び込んだ。
「どうする、隼風?」
白瀬が息を整えながら小声で尋ねる。
「作戦を立てよう。セシリアさんの能力は未知数だが、あの余裕の表情を見る限り、俺たちの実力を甘く見てる。」
隼風が顔を険しくしながら言う。「まずは動きを見極める。俺が正面から注意を引くから、その間に白瀬、お前が近接戦で仕掛けるんだ。」
「了解。」
隼風が慎重にビルの陰から出ると、セシリアがその方向に目を向けた。
「来たわね、風の子。」
彼女は手を軽く振ると、目の前に光の球体が出現する。その瞬間、光球が放たれ、隼風目掛けて猛スピードで突進してきた。
「くっ!」
隼風は風を操り、軽やかに横へと回避する。
しかし次の瞬間、遠くから巨大なエネルギーの奔流が放たれた。それは、凄まじい威力を伴い、周囲のビルを次々となぎ倒しながら進む。衝撃波で地面が揺れ、瓦礫が飛び散る。
「なんだこれ……!」
隼風はその威力に目を見開きながら絶句した。
「……やばい。」
白瀬もまた、普段の冷静な表情を失い、呆然とその光景を見つめるしかなかった。
セシリアは空中に浮かびながら、満足そうに笑みを浮かべる。
「どう?これが私の力。遊びじゃないって分かったでしょ?」
瓦礫の影に隠れながら、隼風は焦燥感に駆られていた。
「この威力じゃ、下手に近づくのも危険だ。白瀬、どうする……?」
白瀬はしばらく黙っていたが、やがて冷静を取り戻し、低い声で言った。
「私が行く。セシリアを近くから仕留める。隼風、遠くからサポートして。」
「待て、それじゃお前が危険だ!」
隼風が叫ぶ。
「でも、こうしてる間にも攻撃は来る。そのうち逃げ場がなくなるだけ。」
白瀬は毅然とした目で隼風を見つめた。
「信じて。」
その言葉に、隼風は歯を食いしばりながら頷く。
「……分かった。絶対にお前をカバーするからな。」
白瀬は隼風の作り出す風の助けを借り、瓦礫の隙間を縫うように前進する。セシリアの注意を引くため、隼風は高空へ舞い上がり、彼女に向かって「疾風一閃」の準備を始めた。
「風で何をするのかしら?」
セシリアは挑発するように笑いながら、またもやエネルギーの球体を出現させた。
その瞬間、白瀬が彼女の背後に氷を纏ったペンギンの姿で現れ、狙いを定める。しかし、セシリアはその動きを察知していたかのように、すぐさま爆発的なエネルギーを放出する。
「しまった……!」
白瀬が反応しきれずに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「白瀬!」
隼風が叫びながら、全力で風を纏い、セシリア目掛けて疾風一閃を放った。
突風がセシリアに向かって直撃するかと思われたが、彼女は軽々とそれを防御フィールドで受け止める。
「やっぱり、それがあなたの切り札なのね。」
セシリアは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「でも、それでは私には届かないわ。」
隼風は息を切らしながらも、再び体勢を整える。しかし、セシリアの圧倒的な力の前に、隼風と白瀬は徐々に追い詰められていった。




