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世界中が敵になっても、自分だけは味方だ

作者: 出雲ノ阿国

 あるところに夫婦がいた。結婚3年目。子供はいない。どこにでもいる普通の夫婦だ。

 結婚当初はラブラブだった。永遠の愛を誓い合った。世界中が敵になっても自分だけは味方だ、と。本気でそう約束し合った。

 そこから3年。その熱は冷めた。かといって仲が悪くなったわけではない。可もなく不可もなく。良くもなく悪くなく。それなりの夫婦になった。


 ところがある日。妻が万引きで捕まった。夫はそれを聞き、慌てて警察署に行った。妻と面会した夫は言った。なんてことしてくれたんだ、と。妻は言った。誤解だ。冤罪だ、と。

 夫は失望した。罪を犯したこともそうだが、反省ないその妻の態度にも腹が立った。そして怒って面会室から立ち去った。

 一方妻も失望していた。実はこの妻、本当に万引きはしていない。冤罪で捕まっているだけなのだ。にもかかわらず、夫は信じてくれなかった。誰よりも味方でいて欲しかった人に裏切られた。その痛みは大きかった。


 家に帰って夫は思った。本当に妻は万引きしたのだろうか、と。妻は優しい人だった。そこに惹かれたのだ。そして誓ったんだった。世界中の誰もが敵になっても、俺だけはお前の味方だ、と。

 夫は調査を開始した。まずは妻が万引きしたとされるスーパーの店長に会いに行った。すると私服警官が捕まえたから店は関与していない、と言われた。

 その後、警察署に行った。妻が万引き犯だという証拠を見せてくれ、と。しかし部外者には見せられない、と言われた。部外者じゃない、と食い下がっても無駄だった。

 そこで男は探偵を雇った。妻の事件を調べてくれ、と。金はかかったが、背に腹は変えられない。

 やがて疑惑は晴れた。功を焦った警官が罪をでっちあげたのだ。妻は無事解放され、夫は大層喜んだ。信じてよかった、と。


 しかし、妻は夫と再会するなり一言。離婚だ。

 夫は驚いた。なぜだ。妻は言った。私のことを信じてくれなかった。勾留中あなたが言った言葉は忘れない、と。

 夫はしかし探偵を雇って、疑惑を晴らした。それを訴えたが、妻は信じてくれなかった。頑なに離婚の意思を崩さなかった。世界中が敵になっても俺だけは味方だ、そう言ってくれたのに。


 やがてこの事件は世間で話題になった。でっちあげられた犯罪とそれに巻き込まれた妻。そして妻を信じなかった夫。

 世間のバッシングは警察と夫に集まった。夫はそれに耐えられなくなった。そして離婚に同意した。世間はそれを歓迎した。そんな冷たい夫と別れて正解だ、と。

 

 時が経って、夫が調査に協力し、冤罪を晴らしたことが明らかになった。世間は夫を見直した。素晴らしい夫だ。そう賛美する声が鳴り止まなかった。

 そこで妻はああ、と思った。世界中が敵になっても私だけは味方だ。そう誓ったはずなのに、と。

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