ケーキとサプライズ
『ごめんなさい、今日は友人たちと遊んで帰るので帰りが遅れます。夕食までには帰るので待っていて下さい』
いつも通り授業が終わり悠真とくだらない話しをしながら学校を出ると、玲奈からロインでメッセージがきていた。
どうやら今日の放課後は友人と遊ぶらしく、帰りが遅くなるという内容だった。
玲奈はロインだと文章が少し硬くなることが多い。
「どうかした?」
僕がずっとケータイを見ていたせいか一緒に帰っていた悠真に質問される。
「別に。ただ玲奈から帰りが遅れるってロインが来ただけ」
「…ぶっちゃけ直樹の彼女って週に何回か来るの?」
「7日か6日かな」
うん、ほぼ毎日だね。
「半同棲とは聞いてたけどさ…」
「うん」
「もう一緒に暮らしてるようなもんじゃん! しかも、どうせ彼女はお前の家に泊まってくんだろ!?」
「そうだね」
「しかも、夜中はイチャイチャしてるんだろ!?」
「それは少し違う」
「ホントかよ…」
疑わしそうな目線を向けてくる悠真。
「朝からイチャイチャしてる」
「自慢かよ! というかさっきのロイン見て思ったけど……もう夫婦みたいじゃん!」
「それね」
「羨ましいすぎる…いつか俺も一人暮らしして彼女を家に呼びたい」
悠真と会話しながらも玲奈にロインを送る。彼女にはいつも料理を作ってもらってるだけでも、コチラとしてはありがたい。
だから「無理して作らなくてもいいよ、外食するし」と送ったのだけど…
玲奈から『夕食までには帰ってくるから待ってて』と返信がすぐに返ってきた。
帰宅途中の道で悠真と別れて1人歩いていると、通学路にあるお洒落なケーキ屋さんが目にはいる。
どうせならサプライズでいつもお世話になっている玲奈にケーキでも買って帰ろうと店の中に入る。
普段はケーキ屋さんに一人で入ることはないので少し気まずい。
玲奈には彼女が好きなフルーツタルトとショートケーキ、自分にはチーズケーキとチョコレートケーキを買って店を出る。
玲奈が喜んでくれたらいいなーと思いつつ自宅までの道のりを歩く。
・・・
17時になりメロディーチャイムが流れ始める。
放送が終わり、それから少ししてから玄関から鍵を開ける音が聞こえた。
どうやら玲奈が帰ってきたらしく足音が聞こえて、リビングのドアが開け放たれる。
「おかえり」
「ただいま」
「ケーキ買ってきたから食べない?」
「ケーキ? 買ってきてくれたの?」
「うん、日頃のお礼も兼ねて」
いつも食事を作ってもらったり、家事を手伝ってもらったりしてるからね。
ケーキの一つや二つじゃ足りないぐらい彼女には尽くしてもらっている。
「ありがとう直樹。じゃあ、さっそくもらおうかしら」
そう言われた僕はキッチンに行き、ケーキを箱から取り出して皿に移す。
これが大人ならインスタントコーヒーなんかを一緒に飲むのかも知れないが、僕も玲奈もコーヒーは飲まないので沸かしたお湯を使って紅茶をカップに入れる。
紅茶も僕1人なら家には置いてなかったと思う。
「玲奈にはフルーツタルトとショートケーキを買ってきたけど、他のケーキが食べたかったら僕のと交換するけど?」
「うーん、大丈夫」
「了解」
「じゃあ食べるね」
三角形になっているショートケーキの先端を切り分けてからフォークで刺して口に入れる玲奈。
ケーキを口に入れた瞬間に花が咲くような笑顔を浮かべてくれたのを見るとサプライズにケーキを買って来て良かったと思う。
「美味しい」
「それなら良かった」
「直樹も食べる?」
「じゃあ、貰おうかな」
「はい、あーん」
玲奈からフォークに刺したケーキを差し出される。
口の中に入れるとクリームの甘さといちごの酸味を感じる。
「直樹のチーズケーキも一口欲しいな」
「了解、あーん」
口を開けて待っている玲奈にチーズケーキを差し出すとパクリとフォークに食らいついた。
「こっちのケーキも美味しい」
こうしてお互いのケーキを分け合いながら食べていれば、いつ間にかケーキを完食していた。
玲奈も嬉しそうな表情をしていたし、サプライズが成功したみたいで良かった。