おっぱいと天敵とジェラシー
家を出て玲奈と2人で最寄り駅を目指して歩く。
僕の自宅から最寄り駅までは徒歩で10分ぐらいだ。
お互いに肩が触れるような距離で歩いていると目線で何かをアピールされる。
多分これは手を繋げということだろう。彼女に手を差し出せば満足そうに僕の手を握った。
いつもの通学路とは反対方向に進むと同じ制服を着た生徒とすれ違う。
僕と玲奈の高校の最寄り駅は同じだからお互いに知り合いに出会う可能性も充分にあるだろう。
最寄りの駅から電車で20分ほど揺られれば本日の目的の駅に到着した。
駅から徒歩で5分ぐらい歩いたところにあるお店が今日のデートスポットだ。
目の前にある看板には「猫カフェさつき」と書いてある。
お察しの通り、今日の目的地は猫カフェだ。きっかけはTVでやっていた猫カフェ特集を見た玲奈が行きたがっていたからだ。
彼氏としては可愛い彼女のお願いを叶えたいということで一緒についてきた。
エレベーターでお店のある階まで行く。さっそく入り口の扉を開けると、数匹の猫ちゃんたちが歩いているのが見えた。
「…可愛い!」
猫に対して既に目をハートマークにして見つめている玲奈。この様子を見るに連れてきて正解だったみたいだ。
確かに昔から猫やらキツネやらの動物が大好きだった。彼女の部屋には猫やキツネなんかのぬいぐるみがいつも置いてあったのが懐かしく感じる。
まあ、今では僕の家に玲奈が持参したぬいぐるみが置いてあるのだけど…
まずはタッチパネルでの受付を済まし、荷物や靴をロッカーに預ける。
殺菌されたスリッパに履き替えてからお店の中に入ると店内を自由に歩き回るたくさんの猫ちゃんたち。
壁にはこのお店にいる全ての猫ちゃんの写真が名前付きで貼ってあった。
「なんか想像以上にオシャレだね」
「そうね、清潔感もあって綺麗だし」
広々とした空間とお洒落な内装。本棚にはたくさんの漫画が置いてある。漫画だけじゃなくゲームなんかも置いてあったりしてビックリした。
「あのアイスをペロペロしてるの可愛いね」
「何あれ! 凄く可愛い!!」
僕たちの他にもお客さんがいて、頭を撫でたりおやつをあげたりと楽しんでいる。
おやつの中には棒の先端に猫の形をしたアイスがついている猫アイスという商品があって猫が一心不乱に舐めている。
にしても、ここまでテンションの高い玲奈は久しぶりに見たかもしれない…
少しだけ猫にジェラシーを感じる。でも僕はお前たちが知らない色んな玲奈を知ってるけどね。
「あの子ココアちゃんって言うんだって! あのふてぶてしい感じが可愛いかも!」
店員から貰ったプロフィール表を見ながら楽しそうに辺りをキョロキョロと見渡す玲奈。
「あ、近づいてきた!」
さっそく先ほどの猫が近づいてきて玲奈のことをジーと見ている。
「名前を読んでみれば?」
確か名前を呼んですぐに来る猫は、呼んだ人物に対して心を開いているんだっけ。
まあ、そんな初対面の人間に呼ばれて猫がホイホイ来てくれるのかは分からないけど。
「そうね、ココアちゃん〜!」
玲奈がいつもよりも甘い猫撫で声で猫を呼ぶとすぐに彼女の足元まで駆けつけてきた。
まるで大好きなご主人様にでも呼ばれたかのようなスピードだ。
そして今度は玲奈の前でお腹を見せてゴロンとする。
「なにそれ〜! もう! ココアちゃん可愛いすぎ〜!」
玲奈に撫でまわされた猫は幸せそうな表情を浮かべドヤ顔で僕を見てくる。
まるでこの女は俺のもんだとアピールしているようにも見える…
なんか、とてつもなくムカつく……今すぐ追い払ってやろうか!
「ち、ちょっと〜! もう〜、甘えん坊さんなんだから」
あろうことかクソ猫は玲奈の豊満な胸に飛びつきやがった…
それは僕だけの特権にも関わらずだ。もはやコイツはただのエロ猫だろ!
どうせ中身も転生した元40代無職童貞のおっさんに決まってる。
しかし、どれだけムカついても此処は猫たちの専用フィールド。
この場所では彼らがキング。
この固有結界の中ではとてもじゃないが勝てそうにない。
ヤバい…
もしかしたらこの場所は僕にとって天敵だったのかもしれない。
さっきから、あの玲奈の胸に顔を埋めて幸せそうにドヤ顔をしてくるエロ猫に殺意しか湧かないのだが…




