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⑥砂漠にて

「だあぁぁぁぁぁ! これで何匹目だよ!?」

「キュウッ!」

「9だって? やかましいわっ!!!!」


 そんな愉快なやり取りをしながら砂漠のど真ん中にて、父の形見である黒い刀『龍想牙』を振るうケン。相手は砂漠の死神と恐れられるサンドワームだ。砂と同じ色の巨大なミミズで、獲物を飲み込むための大きな口からは鋭い牙が覗いている。


 ソフィアと別れてすぐ、大量のサンドワームに囲まれたケンとサラ。不意打ちさえ気を付ければ大して強くないので、最初こそまともに相手をしていたケン。しかしなにせ数が多い。倒した数が50体を超えたところで猛然と逃げ出し、今に至るわけである。


 足元の砂から『ゴバッ』と口を広げながら現れたサンドワームを一刀両断にする。辺りにサンドワームの体液が「ビチャッ」と飛び散る。だがそれには目もくれず、再び走り出すケン。


 だがサンドワームズも獲物を逃がしてなるものか! と執拗にケンたちを追いかける。いまケンたちの背後には、サンドワームが軽く40体はいた。その数は時が経つにつれまだまだ増えていく。


 そうして逃げること数十分。


 そろそろ背後のサンドワームが3桁になろうかという時だった。


 ヒュルルルル~~~~~


 そんな音と共に巨大な火球がケンの頭上を通過していった。そして、


 ドッゴーーーーーーーン


 背後で爆発音が響く。思わず振り返ったケンの背後。そこにいたはずのサンドワームは跡形もなく消し飛んでいた。ケンの懐に隠れていたサラがひょこりと顔を覗かせる。


 ポカンとした表情を浮かべるケン。


 ざっざっ


 そんなケンの背後。砂を踏みしめながら近づいてくる足音。


 振り返るとそこには一人の少年と四人の男がいた。ケンは彼らに頭を下げる。


「えっと、助けてくれたこと感謝します。おれケンっていいます。どうぞよろしく」


 ついでに自己紹介もする。そして相手を観察する。

 先頭は緑色の短めの髪にぱっちりとした大きな目、白い肌をした少年。身長150センチくらい。ケンより少し年下くらいだろうか? 軍服を身に纏い、そして左手には見事な装飾の施された木製の杖を握っている。

 その後ろには明らかに戦士の容貌をした男たち。纏うローブの胸元には、ライオンの紋章が描かれている。


 どこかの国の騎士団なのだろう。


 そしてもう一つ目を引くのが、軍服少年の背後の男たちの一人が背負っている、長さ2メートルくらいの細長い木でできた箱。なんだろうか?

 と、そこまで考えたところで、軍服少年が口を開く。


「なんだ獣人じゃねえか」

「あ?」


 馬鹿にした口調の軍服少年に思わずイラっとくるケン。見る見るうちに険悪なムードになる。


「助けてくれたことは感謝してるがな、いきなりその対応はないんじゃねえか? 獣人だから何だってんだ? あ?」

「これだから獣人は野蛮で困る。魔法も使えず、そうやって凄むしか能のないこの低能種族が」


 言い返すケンに、軍服少年はやれやれと肩をすくめる。こめかみをひくひくさせるケン。相当頭にきている。


「そうやって人間は獣人をバカにするけどな! そうやって他人をバカにするしかできないお前らのほうが低能なんじゃねえか?」

「なんだと? やるかこんにゃろう!」

「おういいぜ。おまえみたいなチビにケンカの仕方が分かるならな!」


 いまにもお互い飛びかかろうとするケンと少年。そこで老齢の男が二人のあいだに割って入る。


「おやめくださいクロード様。あなたはバンテル帝国の五大将軍の一人でありますぞ。こんなところでの私闘は認めるわけにいきません」


 そう言いながら、少年改めクロードを手で制す白髪頭の男。口にはちょび髭を蓄えどこかの執事のようだ。セバスチャンという名前がとても似合いそう。

 そんなことを考えていると、その執事男がケンの方に向き直る。そして驚いたことに、ケンに頭を下げたではないか。


「クロード様がご迷惑をおかけました。深くお詫び申し上げます。ケン様、この私に免じてどうかクロード様のご無礼をお許しいただけないでしょうか」


 そう言って頭を下げる執事男に困惑するケン。まさか責められないどころか、こんなに丁寧に謝罪されては許さないわけにもいかないだろう。


「あー……分かりましたから、どうか頭を上げてください。おれもちょっと短気でしたし、お互い様です」

「ありがとうございます、ケン様。申し遅れました。私はバンテル王国軍、第三部隊副官のセバスタンでございます」


 とても丁寧に自己紹介をするセバスタン。名前を聞いて、なにかとても惜しい気がしてくるケンだったがそこはぐっと我慢する。

 そんなセバスタンのおかげでだんだんと落ち着いてきたケン。しかしそこで水を差すのがクロードクオリティー。


「獣人にそんな丁寧に接する必要ないだろ。そいつも適当に鞭打っときゃいいんだよ」

「てめぇ、まだ言うか…!」

「クロード様!!!」


 相変わらず獣人を見下した発言をするクロードをギロリと睨むケン。セバスタンが制止するが、クロードとケンは額を突き合わせて睨み合う。

 そうしてしばしの間、睨み合った両者。そして、


「「ふんっ!!!」」


 プイッと両者同時に顔を逸らす。

 そんな二人の様子にセバスタンは深い深いため息をつくのだった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 広大な砂漠の中を歩く6つの影。


 ケンと帝国軍人たちだ。クロードとは相変わらず険悪な仲だが、結局ついていくことになったケン。理由は、ケン一人だと砂漠で迷うからとかそんな理由だったりする。


 ケンが隣を歩くセバスタンに尋ねる。


「セバスタンさんは、なんで獣人のおれに丁寧に接するんですか?」

「バンテル帝国は実力至上主義の国家です。力ある者なら人間以外の種族でも軍に所属し、働きに応じて階級を上げていくことが可能なのです。実際、軍には多くの獣人が在籍しています。なので白聖教会の教えなんぞクソくらえ! という軍人は多いです。かく言うわたくしめも獣人に対する差別意識は微塵もございません」

「そうなんですか。良い国なんですね」

「まあ、そうとも言い切れませんが……少なくとも他国よりも獣人に対する差別意識は薄いでしょうね」

「というか白聖教会ってなんですか?」

「白聖教会はこの世界の創造主にして唯一神『ゼブリスク』様を崇拝する宗教団体です。世界中の人間のほぼ全員が白聖教会の信奉者という、巨大宗教団体ですね。ケン様たち獣人が蔑まれているのはこの白聖教会の教えによるものです」


 つまり獣人からすれば諸悪の根源、目の(かたき)といったところか。


 そんな話をしていると、目の前に巨大なサンドワームが出現する。「いやぁぁぁぁ」と悲鳴を上げるケンに反して軍人たちは落ち着いたもの。セバスタンがケンに微笑みを向ける。


「大丈夫ですよ。あの程度の魔物、五大将軍のクロード様にかかれば赤子も同然です」

「五大将軍?」


 尋ね返すケンにセバスタンが説明をしてくれる。


 五大将軍とは帝国の五つの部隊をそれぞれ指揮する部隊長のこと。皇帝を除けば軍のトップに当たるわけだ。


 その重要な役職に若干10歳で就任したのがクロードだという。いまは12歳。クロードは帝国歴代最強の魔術師とまで呼ばれる魔法の天才なのだとか。


 平民の出身でありながら四大属性のうち、一撃の威力に優れる火と、手数と速さに優れる風の2属性に適性を持ち、地と水の属性についても多数の魔法を扱える。


 魔法属性の適性は一つ持つだけでも千人に一人という割合。それを二つも持ち、さらには膨大な魔力量を持つ。そして本来は詠唱が必要な魔法を、簡単なものなら無詠唱で行使可能。


 その話を「ふーん」と聞き流すケン。ドラゴンスレイヤーのケンは当然のように四大属性すべてに適性を持ち、魔法はどんな強力なものでも詠唱なしで発動できる。


 なのでケンはいまいち実感できていないが、クロードは人間としては破格の存在だ。帝国最強の一角に数えられても不思議はないのである。


 そんな風に互いの話をしながら進んでいくと、日がそろそろ沈もうかというころ、目的地のオアシス都市に到着する。そこはジャンカ王国といい、大陸南西にある帝国と大陸東の国々との交易の中継国家として発達した国だった。


 オアシスを中心に発達した街を半球形の透明なシールドが囲んでいる。


 ジャンカ王国の出入り口へと向かう一行。

 そこには二人の門番が立っていた


「身分証明書をお見せください」


 そう言ってくる門番。各々に身分証を取り出し、門番に見せる騎士たち。だがケンはそんなものは持っていない。どうしたものかとおろおろしていると、それに気が付いたセバスタンが小声で声を掛けてくる。


「身分証明書をお持ちでないのですか?」

「はい……」


 申し訳なさそうに頷くケン。それにセバスタンはニコリと微笑むと、


「気を悪くしないでくださいね」


 そう言って門番に近づくと、なにごとかを耳打ちする。しばらくなにか喋っている様子の門番とセバスタンだったが、どうやら話はまとまったらしい。門番が頷き、それにセバスタンが礼を言っている。


 そして何も見せていないにもかかわらず、あっさりとケンは門を通過できた。ちなみにサラはケンの懐ですやすやと眠っているため特にバレることもなく門を素通りしている。

 自分が門を通れたことを疑問に思ったケンは、セバスタンに尋ねるがなかなか答えてくれない。それでもなお粘ると、渋々といった様子で教えてくれた。


「あの門番たちには、ケン様のことは奴隷だと、そう言いました。奴隷が身分証明書を持っていることなど稀ですからね。少々疑われましたが無事許可が下りました。気を悪くされたのなら謝罪します」

「いえ、全然大丈夫です。むしろありがとうございます」


 申し訳なさそうにそう話すセバスタンに、ケンはそう答える。ほっとした表情を見せるセバスタン。なかなか憎めない人柄だ。


 そんなこんなで門を通った先には、実に美しい街並みが広がっていた。円形の街を十字に通る整備された石畳の大通り。道々には乳白色の古風な家や店が立ち並び、道に沿ってヤシの木が一定間隔に並んでいる。町の中心、大通りが交錯するところには、大きな、先の尖った球体に近い屋根を持つ、白い王宮がそびえたつ。そしてその王宮の後ろには、美しいオアシスが広がり、そこから水が流れ出して、街を潤している。全体的に温かい雰囲気を持つ国だ。


 そしてなにより特筆するべきは、外はすでに日が沈んだにも関わらず、街は明るいということだ。聞くところによると、どうやら上空の透明なシールドが関係しているらしい。


 そのシールドは、日中は外から入り込んでくる日の光を抑えると同時に、その光を蓄えることによって夜も街を明るく保ち、常に街を快適な環境にする機能があるのだとか。また、砂は通さないが、雨や風は通すという。ようするに、


「不思議シールドなんだな~」

「キュイッ」

「やっぱおまえバカだろ」


 ケンの頭では理解しきれないので、不思議シールドで片付ける。それに同意の声を上げるサラ。ほんとにいいコンビだ。逆に、思わずといった感じでそう突っ込むクロードとは実に相性最悪……いや、ある意味いいのかもしれないが。


 そんなことを言われれば、もちろんクロードに食って掛かるケン。

 再びケンとクロードの言い合いが始まる。


「ならおまえは理解できるってのかよ!?」

「少なくともおまえよりはな!」

「ほー、なら説明してみろよ! 分かりやすく! 100字以内で!」

「バカにいくら説明しても意味ねーよ! 時間の無駄!」

「んだとこらぁーーー!」

「やんのか!?」

「おおいいぜ! 上等だこら!!!」


 小学生のような実に幼稚な言い合いだ。

 だが幼稚な二人は止まらない。

 そっからは取っ組み合いの大喧嘩。


 ポカポカ! ギャースカギャースカ! ポカポカ!


 そんな調子で、街のど真ん中で取っ組み合う二人。と、そんな二人の背後にゆらりと立つ影。そして、


 ガンッ!ガンッ!


 二人の頭に拳骨を落とす。その正体はもちろんセバスタン。

 二人のあまりの醜態(しゅうたい)に見ていられず、ついに力ずくで割って入ったのだった。


「いいかげんにしてください、お二人とも。ほら、行きますよ」


 そう言ってため息を吐くセバスタン。しかし言葉とは裏腹に、二人を見る目はどこか優し気で、その様子はまるで孫を見るおじいちゃんのよう。

 しかしもちろん、当の本人たちはそんなことには気が付かない。互いに「ガルルルル」と睨み合いながら、セバスタンに襟首を掴まれて通りを引きずられていくのだった。


魔法についての補足説明(書き切れなかった分です。興味があれば読んでみてください)


・人はどんなに魔力量が少なくても、練習すれば「火」「水」「風」「土」といった四大元素の属性の魔法は使えるようになる。

・人にはそれぞれ属性に関して適性が存在する。適性がない属性に関しては、中級魔法…せいぜい対10人くらいの魔法までしか使えない。適性がある属性では広範囲攻撃魔法などの上級魔法以上の魔法を使える。

・人間が魔法を使う際には詠唱を必要とする。ドラゴンスレイヤーのケンは魔力に直接干渉できるのに対し、普通の人は魔力を操作するのに媒介として詠唱が必要ということ。

・魔法を発動させられるのは、自分の視界が届く範囲内のみ。自分の目で見えないところで魔法を発動したければ、あらかじめ魔法陣を用意して設置しておくことが必要。さらに詠唱も視界内で魔法を行使する場合よりずっと長くなる。


この設定が今後どれくらい活きてくるのかは未定です。

あとケン最強! て言いたくなりますが、ケンは現状では魔法をほぼ使えないです。使うと制御しきれずに暴発します。

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