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⑤世間知らずな少年

「助けていただきありがとうございます」

「キュイ」


 空を飛ぶ竜の背に乗りながら、目の前の赤い瞳の女性……ソフィアに深々と土下座するケンとサラ。そんな二人にソフィアは長い金髪を風になびかせながらケラケラと笑う。


「構わないよ。たまたま近くを通りかかったらでっかい魔力を感知してね。気になって様子を見に来たら君たちが流されているのが見えただけだから」


「なるほど」と頷くケン。するとそんなケンの目をソフィアがずいっと覗き込む。綺麗な女性に見つめられ、ちょっとドギマギするケン。


「な、なんでしょうか?」

「あれをやったのは君だね?」

「―――!? な、なんで分かって……」

「それくらい分かるさ。だてに長いこと冒険者やってるわけじゃない。しかし獣人なのに魔力を……なるほど、ドラゴンスレイヤーか。生で見るのは初めてだね」


 すべてを言い当てられて目をぱちくりさせるケン。


「凄いですね……」

「これくらい大したことないよ。なんてったってあたいはSランク冒険者だからね。それと敬語はやめてくれ。なんだか虫唾が走るから」

「わ、分かりま……じゃなくて分かった。ところであの……先から言ってる冒険者とか、Sランクとかってなんの話?」


 その質問に目を丸くするソフィア。


「もしかしてあたいのことを知らない!? このSランク冒険者『魔物使いのソフィア』を!?」

「うん。知らない」

「かぁ~。知らない人について行くなって親に教わらなかったのかい?」

「あ、確かに。でもなんだろう……ソフィアの匂いがなんか覚えがあって……なんか安心してた」

「なんだいその理由は。まあいいさ。とりあえずあんた……えっと、」

「ケンです。こっちのトカゲはサラマンダーの子供のサラ」

「キュイ!」

「ケンとサラだね。あんたら随分と世間知らずみたいだから、あたいがいろいろ説明しといてやるよ」


 まずソフィアが話したのは冒険者について。


 冒険者は簡単に言ってしまえば魔物を狩ってその報酬で暮らしている人たちのこと。魔物の素材や魔石はいまの人間社会の基盤になっているため、生活は割と安定するらしい。他にも要人や商人の護衛などもやるとか。


 そして冒険者はそれぞれの活躍、実力に応じてE~Sランクに振り分けられている。Eランクは駆け出し。Bランクまで上がれればベテラン、それ相応の実力者といった感じだ。


 Aランクにもなると全世界で5万人以上いる冒険者たちの上位1パーセント程度、つまり500人ほどになり、Sランクにいたっては現在、世界にたったの7人しかいないらしい。


 目を丸くするケン。


「ソフィアはSランクって言ってた!?」

「そうだよ! あたいはめっちゃ有名人なんだよ!」


 次にソフィアが説明したのは魔物について。魔物も冒険者のように危険度、強さに応じて、以下のようにランク分けがされている。


 Eランク→畑や家畜に被害を与える程度の魔物

 Dランク→不特定多数の人に被害を与えるような魔物

 Cランク→村や小さな町に壊滅的な被害を与えうる魔物

 Bランク→大きな町を壊滅しうる魔物

 Aランク→複数の街を壊滅しうる魔物

 Sランク→国一つを壊滅しうる魔物

 SSランク→複数の国を破壊しうる魔物


「ちなみにあたいらがいま乗ってるこの竜。サイズは小さめだけど古龍だからSSランクだよ」

「―――!?」


 国を容易く滅ぼせる存在の背に乗っていることに気が遠のきかけるケン。そんなケンの身体をソフィアが支えながら、呆れたような視線を向ける。


「あんたもドラゴンスレイヤーなら古龍と同等の力を持ってんだから、これくらいのことで失神するんじゃないよ」

「え? ……あ、確かに」


 納得顔のケンなのであった。そうして体勢を立て直した後、今度はケンから質問をする。


「ところでさ、おれたちはどこに向かってるんだ?」

「ん? 奴隷商がある街さね。せっかく獣人を助けたんだ。売り払って金にしないとね」

「いい人かと思ったら守銭奴だった!?」


 慌ててソフィアから距離をとるケン。そんなケンにソフィアが「おいおい」と手招き。


「冗談だから戻ってきな。落ちたりしても今度は助けないよ」

「……まったく冗談に聞こえなかったけど……」

「あっはっは! それよりケンはどこか行きたいところがあるのかい?」

「うん。魔女に会いたいんだけど、どこにいるか知ってる?」

「魔女かい……魔女と言われて思い浮かべるのは『砂漠の塔の魔女』さね」

「砂漠の塔の魔女?」


 首を傾げるケンにソフィアが説明をしてくれる。


「遥か昔、邪神と共にこの世界を滅ぼそうとした6体の眷属。原初の古龍、魔犬、海神、氷の巨人、ヴァンパイアクイーン。世界最強と言われるそいつらと並んで恐れられるのが砂漠の塔の魔女さ。あんたはそいつに会いたいのかい?」

「分かんないけど……それしか手がかりがないなら、その魔女に会いに行きたい」


 真っすぐと注がれるケンの視線。その決意の光を湛えた瞳を見つめ返し、ため息を吐くソフィア。


「まったく……魔人族の動きがキナ臭かったり、新しい勇者が召喚されたりと世の中かなり荒れてるってのに、とんだ命知らずだね」

「どんなに危険でも、おれはどうしても魔女に会う必要があるんだ」


 そんなケンの言葉にソフィアは眉を顰める。しかし特には突っ込まず、ただ白竜に命じて行先を変更する。


 それから数時間後。


 ケンは砂漠のど真ん中で立ち往生していた。頭上で羽ばたく白竜、その背中でニコニコと笑うソフィアにジト目を向ける。


「魔女の塔まで連れていってくれるんじゃないの?」

「バカ言ってんじゃないよ。あたいは命が惜しい。魔女の塔に近づくなんて御免だね」

「冒険者なのに!?」


 驚くケン。そんなケンにソフィアは呆れた視線を向ける。


「あのね、冒険者ってのはボランティアじゃないんだよ。金のために仕事をしてんだ。特にあたいは金に見合わない仕事はしない主義さ。逆に、金さえ積まれればなんでもする。それがあたいのポリシーさね」

「そんなぁ~……どうしてもダメ?」

「そうさねぇ……」


 ウルウルとしたケンの瞳に見つめられ、少し考えこむ素振りを見せるソフィア。そして手で札束の厚みを表現してケンに見せる。


「これくらい積まれれば塔の近くまで連れてってやるよ」

「そんな大金用意できるかぁ!」

「じゃあ諦めて自分の足で行くんだね」


 すげなく断られて崩れ落ちるケン。そこでふと、浜辺で拾った赤い剣の存在を思い出す。


「この赤い剣あげるから連れてってくれない?」

「ん……なんだいこれは?赤い……魔剣?」


 ケンから赤く輝く剣を受け取り、その軽さと美しさに目を見張るソフィア。そうしてしばらく値踏みする様に観察し、そして大きく頷く。


「売ればあんたをここまで運んできた運賃くらいにはなるだろうさ。ありがたく貰っていくよ」


 そう言ってソフィアは白竜と共に飛び去っていく。その遠ざかっていく背中を呆然と見送るケン。はっと我に返ると、その背中に向かって絶叫する。


「やっぱり守銭奴じゃねぇかぁぁぁぁぁ」

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